[PC41] 中学生当時のいじめ被害が高校生の将来展望に及ぼす影響(2)
入学前・入学後調査結果による検討
キーワード:いじめ、将来展望、高校生
目 的
三島(2019)は,中学生当時に受けた仲間はずれなどによるいじめ被害が,高校入学後の将来展望の「向社会的努力志向」「肯定的・積極的将来像」を低下させる可能性があることを示唆する結果を得た。こうした結果が得られた理由として,中学生当時のいじめ被害が,生徒の抑鬱傾向を強め,将来に対するポジティブな展望を抑制したことが考えられる。一方,実験室実験の結果をもとに考えれば,不安や抑鬱などのネガティブな情緒的要因が介在せず,高次の認知機能の低下や,将来に対する展望の欠如といった側面に,社会的な排斥が直接影響を与えた可能性もある(Twenge,et al.2003)
こうしたことから,中学生当時に受けたいじめ被害が,高校入学後の将来展望に影響を与える過程として,抑鬱傾向などの情緒的な要因が介在する過程だけでなく,いじめ被害による排斥が直接,将来展望を低下させた可能性もある。本研究では,中学生当時のいじめ被害が抑鬱傾向を強め,高校生の将来展望が低下する過程と,中学生当時のいじめ被害が直接,高校生の将来展望を低下させる過程の双方の可能性について検証する。
方 法
対象・時期:2018年4月にA県立B高等学校に入学した281人を対象に,入学前の入学説明会で保護者に調査紙を配り目的を説明して調査への協力を求め,保護者経由で生徒に調査紙を配布した。さらに入学後の6・11月にも学級単位で調査を実施した。入学前後の調査に関しては,管理職を含めた高校職員と内容を検討し,高校側の同意の下で実施した。なお,本調査に関しては,中部大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:290093)。すべての調査に欠損がない生徒230人(男子104人 女子126人)のデータを分析した。
調査内容:中学生当時のいじめ被害を入学前に調査した。抑鬱傾向については,簡易抑鬱症状尺度(QIDS –J)から,高校生の生活実態と関連する7項目を利用して6月に調査した。将来展望については,高校生用将来展望尺度(三島, 2018)「向社会的努力志向」「将来像・目標の明確さ」「肯定的・積極的将来像」の3因子15項目を利用して11月に調査した。
結果と考察
いじめ被害による抑鬱傾向・将来展望
いじめ被害程度を調べた(5件法)3項目のうち,「3」が1項目以上あった者を弱被害群(n=27),「4」が1項目以上あった者を被害群(n=15),それ以外を無被害群(n=188)の3群に分類した。
平均値を3群間で比較した結果,抑鬱傾向得点(F(2,227)=4.43,p<.05),向社会的努力志向尺度得点(F(2,227)=7.63,p<.01),および肯定的・積極的将来像尺度得点(F(2,227)=6.54,p<.01)に有意なちがいがみられ,中学生当時いじめ被害を受けた生徒の方が高校入学後の抑鬱傾向が強く,将来展望が低調であることが示唆された。
いじめ被害が将来展望に影響する過程
Figure 1のモデルを共分散構造分析により検討した結果,モデルの適合度は許容できる範囲であり(GFI=.99, AGFI=.97, CFI=.99, RMSEA=.032),このモデルをもとにして解釈を行う。
高校入学後の将来展望に,中学生当時のいじめ被害が影響する過程として,抑鬱傾向の高まりが介在する過程と,いじめ被害が直接影響する過程の双方があることが示唆された。こうした結果が得られたことから,いじめ被害者に対する支援を行う場合,抑鬱傾向を緩和するなど情緒的な側面に対する臨床心理学的な支援だけでなく,将来展望を高めるようなキャリア支援を合わせて充実させることが必要ではないだろうか。
付 記
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K04379)によるものである。
三島(2019)は,中学生当時に受けた仲間はずれなどによるいじめ被害が,高校入学後の将来展望の「向社会的努力志向」「肯定的・積極的将来像」を低下させる可能性があることを示唆する結果を得た。こうした結果が得られた理由として,中学生当時のいじめ被害が,生徒の抑鬱傾向を強め,将来に対するポジティブな展望を抑制したことが考えられる。一方,実験室実験の結果をもとに考えれば,不安や抑鬱などのネガティブな情緒的要因が介在せず,高次の認知機能の低下や,将来に対する展望の欠如といった側面に,社会的な排斥が直接影響を与えた可能性もある(Twenge,et al.2003)
こうしたことから,中学生当時に受けたいじめ被害が,高校入学後の将来展望に影響を与える過程として,抑鬱傾向などの情緒的な要因が介在する過程だけでなく,いじめ被害による排斥が直接,将来展望を低下させた可能性もある。本研究では,中学生当時のいじめ被害が抑鬱傾向を強め,高校生の将来展望が低下する過程と,中学生当時のいじめ被害が直接,高校生の将来展望を低下させる過程の双方の可能性について検証する。
方 法
対象・時期:2018年4月にA県立B高等学校に入学した281人を対象に,入学前の入学説明会で保護者に調査紙を配り目的を説明して調査への協力を求め,保護者経由で生徒に調査紙を配布した。さらに入学後の6・11月にも学級単位で調査を実施した。入学前後の調査に関しては,管理職を含めた高校職員と内容を検討し,高校側の同意の下で実施した。なお,本調査に関しては,中部大学倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:290093)。すべての調査に欠損がない生徒230人(男子104人 女子126人)のデータを分析した。
調査内容:中学生当時のいじめ被害を入学前に調査した。抑鬱傾向については,簡易抑鬱症状尺度(QIDS –J)から,高校生の生活実態と関連する7項目を利用して6月に調査した。将来展望については,高校生用将来展望尺度(三島, 2018)「向社会的努力志向」「将来像・目標の明確さ」「肯定的・積極的将来像」の3因子15項目を利用して11月に調査した。
結果と考察
いじめ被害による抑鬱傾向・将来展望
いじめ被害程度を調べた(5件法)3項目のうち,「3」が1項目以上あった者を弱被害群(n=27),「4」が1項目以上あった者を被害群(n=15),それ以外を無被害群(n=188)の3群に分類した。
平均値を3群間で比較した結果,抑鬱傾向得点(F(2,227)=4.43,p<.05),向社会的努力志向尺度得点(F(2,227)=7.63,p<.01),および肯定的・積極的将来像尺度得点(F(2,227)=6.54,p<.01)に有意なちがいがみられ,中学生当時いじめ被害を受けた生徒の方が高校入学後の抑鬱傾向が強く,将来展望が低調であることが示唆された。
いじめ被害が将来展望に影響する過程
Figure 1のモデルを共分散構造分析により検討した結果,モデルの適合度は許容できる範囲であり(GFI=.99, AGFI=.97, CFI=.99, RMSEA=.032),このモデルをもとにして解釈を行う。
高校入学後の将来展望に,中学生当時のいじめ被害が影響する過程として,抑鬱傾向の高まりが介在する過程と,いじめ被害が直接影響する過程の双方があることが示唆された。こうした結果が得られたことから,いじめ被害者に対する支援を行う場合,抑鬱傾向を緩和するなど情緒的な側面に対する臨床心理学的な支援だけでなく,将来展望を高めるようなキャリア支援を合わせて充実させることが必要ではないだろうか。
付 記
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K04379)によるものである。