日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-66)

2019年9月14日(土) 15:30 〜 17:30 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号15:30~16:30
偶数番号16:30~17:30

[PC44] 擬態語による性格認知とエゴグラムとの関連

擬態語性格尺度と新版TEGⅡの自己評定結果の分析

向山泰代1, 西岡美和2, 小松孝至3, 酒井恵子4 (1.京都ノートルダム女子大学, 2.甲南女子大学, 3.大阪教育大学, 4.大阪工業大学)

キーワード:擬態語、擬態語性格尺度、エゴグラム

問題と目的
 擬態語性格尺度は,臆病さ(おどおど・もじもじ等),緩やかさ(のほほん・ほんわか等),几帳面さ(きっちり・しっかり等),不機嫌さ(いらいら・ぴりぴり等),淡白さ(あっさり・さばさば等),軽薄さ(うきうき・でれでれ等)の6下位尺度からなり,自他の性格評定に使用できる。発表者らは,これまでに擬態語性格尺度を用いて性格の量的・質的な研究を行ってきた(例:5因子性格検査や価値志向性尺度との相関研究,面接データにもとづく擬態語の性格表現の事例研究)。本研究では,関係の中での機能や適応に着目しつつ性格理論や性格概念との関連を検討するため,交流分析理論にもとづく性格検査(新版TEGⅡ)と擬態語性格尺度との関連を調べる。
方  法
研究協力者 近畿圏の大学生287名(男性96名,女性180名,性別不明11名),18歳~29歳(M=18.65, SD=1.08)。収集したデータは306名であったが,TEGの妥当性尺度での判定基準を上回った者(Lスコア3点以上または欠損値,Qスコア32点以上の者)14名と,調査回答時の行動から判断して,日本語の意味理解が十分でないと思われた留学生5名を除外した287名を分析の対象とした。
調査内容 協力者は各項目に対し自分への当てはまりの程度を回答した。擬態語性格尺度(小松ら, 2012)の60項目(10項目×6下位尺度)では5件法(全く当てはまらない:1~非常に当てはまる:5),新版TEGⅡ(東京大学医学部心療内科,2006;以下TEGとする)の53項目(10項目×5下位尺度と3項目のL尺度)では3件法(はい:2,どちらでもない:1,いいえ:0)で回答した。
調査時期と実施手順 2018年7月上旬~12月下旬に発表者らが担当する講義の受講生を対象に,無記名で集団実施した。実施時,調査の目的や調査への回答は任意であることを説明し,協力を依頼した。擬態語性格尺度とTEGを入れた封筒(ID番号付き)を配布し,回答終了後にTEGの自己採点と解説を行い,回答済みの両調査用紙を封筒に入れた状態で回収した。調査への回答順序は,実施時の教示でカウンターバランスをとった。調査は発表者の所属機関の研究倫理審査委員会で承認を得て実施した。
結果と考察
 TEGとの相関が相対的に低いものも含めて擬態語性格尺度との関連を検討するため,相関の絶対値.20を超えるものに着目した。以下では,TEGの5つの下位尺度を代表する項目(測定方程式モデルにおける影響指標の値の大きい項目; 東京大学医学部心療内科,2006)をもとに考察する(TEGは,批判的親をCP,養育的親をNP,成人をA,自由な子どもをFC,順応した子どもをACと表記)。
 「臆病さ」はACとの相関が最も高く(r=.51),FCとはr=-.37,CPとはr=-.32であった。これより「臆病さ」は,他者の言動や評価を気にし,それらによって自身の行動を決定しがちであり,自己主張はせず,明るさや笑い,ユーモアに乏しいことと関連している。びくびくと大人の顔色をうかがう子どものような特性と考えられる。「几帳面さ」はCPとの相関がr=.44と最も高く,AとNPとの相関は正(r=.34とr=.31),ACとは負(r=-.27)であった。従って「几帳面さ」は,自己主張や責任感が強くリーダーシップがあり,面倒見が良く親切で,事実や論理を重視し,他者の言動や評価に影響されにくいことと関連している。“大人らしさ”を最も明確に反映した特性といえる。「不機嫌さ」はNPとの相関が最も高くr=-.35であった。これより「不機嫌さ」は,他者に優しく接したり,配慮したりといった行動が乏しいことと関連している。“大人らしさ”の中の“思いやり”に欠けることを反映するといえる。「軽薄さ」はFCとの相関が最も高くr=.40であった。これより「軽薄さ」は,明るくユーモアのセンスがあり,他者を楽しませたり,自らが楽しんだりすることが得意なことと関連している。「緩やかさ」はCPとの相関が最も高く(r=-.28),Aとはr=-.22であった。これより「緩やかさ」は,自己主張やリーダーシップの弱さ,責任感や論理性の乏しさに関連している。「淡白さ」はACとのr=-.23であった。従って「淡白さ」は,他者の言動や評価を気にかけず,それらに左右されにくいことと関連している。「緩やかさ」「淡白さ」は他の擬態語群に比べてTEGとの相関が相対的に低く,“親”“大人”“子ども”の自我状態による構造モデルや,エゴグラムで表現されるパーソナリティの各部分同士の関係や心的エネルギーの多少といった説明には当てはまりにくい特性と言えるかもしれない。本研究では,下位尺度間の相関をもとに擬態語性格尺度で測定される性格をTEGとの関連で述べたが,TEGの下位尺度の得点によるパターン分類にもとづく分析は今後の課題である。
引用文献
小松孝至・酒井恵子・西岡美和・向山泰代 (2012).自他の性格評定に使用可能な擬態語性格尺度の構成 心理学研究,83,82-90.  
東京大学医学部心療内科(編)2006 新版TEGⅡ 解説とエゴグラム・パターン 金子書房.