[PD63] 中学生の援助要請行動の変化および適応への中期的影響
学期毎の3時点データを用いた検討
キーワード:援助要請、中学生、潜在推移分析
問題と目的
中学生の不登校やひきこもり等の不適応防止策として講じられているスクールカウンセラーや地域の居場所づくり等の社会的援助は,緊急性の高い場合を除き,悩みをもつ中学生自身による「援助要請行動」があって初めて機能する。そのため,中高校生対象の援助要請行動の促進を目指す介入プログラムの開発が進んでいる (e.g. Gulliver et al, 2012)。しかし,介入研究の多くはプログラム実施直後の変化を見たものであり,ある程度の時間が経過した後の援助要請行動の変化および適応への影響を検討しているものは少ない (Lipson, 2014)。また,近年は単に援助要請のみを測定するのではなく,他のコーピング方略や社会的資源との関係性の中で援助要請の適応への影響を検討することの重要性が指摘されつつある (Heerde & Hemphill, 2018)。つまり,コーピング方略との組み合わせを加味した援助要請行動の中長期的効果と変化についての検討が不十分であると言える。
本研究では,1学期時点の援助要請行動が2・3学期の適応へ与える影響並びに援助要請行動の変化を,コーピング方略との関連を踏まえて検討する。
方 法
データ収集の方法
対象:A県の公立中学校2校の1~3年生699名
時期:2018年6月〜2019年2月(4ヶ月間隔)
方法:学期毎の質問紙調査(A校は3時点で調査を実施したが3学期は1・2年生のみ。B校は2・3学期の2時点で全学年実施。)
変数:学校生活享受感(古市・玉木, 1994),感情バランス(佐藤・安田, 2001),コーピング方略(情緒的援助要請,道具的援助要請,積極的コーピング,行動的諦め)(大塚, 2008)
分 析
1) 援助要請とコーピングによる潜在クラス
情緒的援助要請,道具的援助要請,積極的コーピング,行動的諦めの各時点(T1~T3)における得点(全くしなかった1~よくそうした4)を用いたLatent transition analysisを行う。
2) 潜在クラスによる適応差
Tukeyの多重比較検定で,クラス毎に学校生活享受感と感情バランスに差が見られるか検討する。特にT1のクラスによってT2・T3の適応に差が見られるかに着目する。
3) 援助要請行動の変化
時点間のクラス移動割合のオッズ比検定を行う。
結 果
有効回答者は,695名(男子359名,女子330名,不明6名)であった。
援助要請とコーピングによる潜在クラス
BICおよびentropyを基準に7クラスモデルを採用し,以下のように命名した。
class1 (c1): Low Help-Seeking (HS)/passive
class2 (c2): Low HS/active
class3 (c3): Moderate HS/passive
class4 (c4): Moderate HS/active
class5 (c5): High HS/passive
class6 (c6): High HS/active
class7 (c7): No trouble(調査前1ヶ月悩みなし)
潜在クラスによる適応差
T1でc1・3だった生徒は,T2でc4~7よりも,T3でc6・7よりも学校生活享受感が有意に低かった。また,T1でc1・3・5に所属した生徒は,T2・3でもc6・7より感情バランスが有意に低かった。
援助要請行動の変化
時点間で約30~70%の生徒が同程度の援助要請を行うクラスに留まった。Low HSからHigh HSへの移動は10%程度であった。
考 察
援助要請行動のみではなく他コーピング方略との組み合わせにより中期的適応が異なることが明らかになった。また,中学生の援助要請行動は大幅には変動しにくく,援助要請の促進を目的とした一時点での介入が中長期的効果をもつのかは未だ検討の余地がある。今後はクラス間移動に関連する個人内または環境要因の検討も望まれる。
中学生の不登校やひきこもり等の不適応防止策として講じられているスクールカウンセラーや地域の居場所づくり等の社会的援助は,緊急性の高い場合を除き,悩みをもつ中学生自身による「援助要請行動」があって初めて機能する。そのため,中高校生対象の援助要請行動の促進を目指す介入プログラムの開発が進んでいる (e.g. Gulliver et al, 2012)。しかし,介入研究の多くはプログラム実施直後の変化を見たものであり,ある程度の時間が経過した後の援助要請行動の変化および適応への影響を検討しているものは少ない (Lipson, 2014)。また,近年は単に援助要請のみを測定するのではなく,他のコーピング方略や社会的資源との関係性の中で援助要請の適応への影響を検討することの重要性が指摘されつつある (Heerde & Hemphill, 2018)。つまり,コーピング方略との組み合わせを加味した援助要請行動の中長期的効果と変化についての検討が不十分であると言える。
本研究では,1学期時点の援助要請行動が2・3学期の適応へ与える影響並びに援助要請行動の変化を,コーピング方略との関連を踏まえて検討する。
方 法
データ収集の方法
対象:A県の公立中学校2校の1~3年生699名
時期:2018年6月〜2019年2月(4ヶ月間隔)
方法:学期毎の質問紙調査(A校は3時点で調査を実施したが3学期は1・2年生のみ。B校は2・3学期の2時点で全学年実施。)
変数:学校生活享受感(古市・玉木, 1994),感情バランス(佐藤・安田, 2001),コーピング方略(情緒的援助要請,道具的援助要請,積極的コーピング,行動的諦め)(大塚, 2008)
分 析
1) 援助要請とコーピングによる潜在クラス
情緒的援助要請,道具的援助要請,積極的コーピング,行動的諦めの各時点(T1~T3)における得点(全くしなかった1~よくそうした4)を用いたLatent transition analysisを行う。
2) 潜在クラスによる適応差
Tukeyの多重比較検定で,クラス毎に学校生活享受感と感情バランスに差が見られるか検討する。特にT1のクラスによってT2・T3の適応に差が見られるかに着目する。
3) 援助要請行動の変化
時点間のクラス移動割合のオッズ比検定を行う。
結 果
有効回答者は,695名(男子359名,女子330名,不明6名)であった。
援助要請とコーピングによる潜在クラス
BICおよびentropyを基準に7クラスモデルを採用し,以下のように命名した。
class1 (c1): Low Help-Seeking (HS)/passive
class2 (c2): Low HS/active
class3 (c3): Moderate HS/passive
class4 (c4): Moderate HS/active
class5 (c5): High HS/passive
class6 (c6): High HS/active
class7 (c7): No trouble(調査前1ヶ月悩みなし)
潜在クラスによる適応差
T1でc1・3だった生徒は,T2でc4~7よりも,T3でc6・7よりも学校生活享受感が有意に低かった。また,T1でc1・3・5に所属した生徒は,T2・3でもc6・7より感情バランスが有意に低かった。
援助要請行動の変化
時点間で約30~70%の生徒が同程度の援助要請を行うクラスに留まった。Low HSからHigh HSへの移動は10%程度であった。
考 察
援助要請行動のみではなく他コーピング方略との組み合わせにより中期的適応が異なることが明らかになった。また,中学生の援助要請行動は大幅には変動しにくく,援助要請の促進を目的とした一時点での介入が中長期的効果をもつのかは未だ検討の余地がある。今後はクラス間移動に関連する個人内または環境要因の検討も望まれる。