[PE39] 大学生における肢体不自由者の友人の有無による障害者観及び潜在的ステレオタイプの違い
キーワード:身体障害、潜在連合テスト(IAT)、インクルーシブ教育
問 題
一般的に,健常者は障害者に対して過度な能力の低さや温かい人柄を有するというステレオタイプを持ちやすく(栗田・楠見, 2012),身体障害者との交流に抵抗感を抱きやすい(河内, 2004)。しかし,インクルーシブ教育を推進する大学では,健常学生と身体障害学生が大学生活を通して親密な友人関係を築くことも多い。このような健常者は,障害者と同じ学校で学修することを肯定的に捉え,障害者へのステレオタイプも弱いと考えられる。そこで本研究では,健常な大学生を対象に,障害者の友人の有無による障害者観と潜在的ステレオタイプの違いを検討する。なお,本研究では身体障害の種類を肢体不自由に限定した。
方 法
調査協力者 大学生51名の内,身体障害の友人あり群17名(男性4名,女性13名),友人なし群34名(男性6名,女性28名)であった。
潜在的ステレオタイプ 障害者の能力IAT(小川,2018),障害者の人柄IAT(Table 1)をE-prime3.0(Psychology Software Tools)で作成し,タブレットPC(FKH-00014,Microsoft)で実施した。人柄IATのブロック数・試行数は能力IAT(小川, 2018)と同じにした。IAT得点はGreenwald et al.(2003)の計算式で算出した。各IAT得点は,栗田・楠見 (2012)と同様に,「能力が低い」または「温かい」というステレオタイプが強いほど正の値が大きくなるように処理した。
障害者観 障害者観尺度(河合,2004)を「全く同意できる(6点)-全く同意できない(1点)」で評定させた。下位尺度は,総合教育尺度(「身体障害の子どもは,普通学校の中で十分に活動できる」など8項目),当惑尺度(「身体障害の人とつきあうにはひどく気をつかう」など8項目)の2つであり,下位尺度別に項目平均値を算出した。
結果・考察
友人の有無による得点の違いを検討するため,各尺度及びIAT得点ごとにt検定を行った (Table 2)。結果,友人あり群が友人なし群より総合教育尺度の得点が高く(t(49) = 3.19, p < .01),当惑尺度の得点が低かった(t(49) = 2.49, p < .05)。すなわち,身体障害の友人をもつ大学生は,身体障害者が同じ学校で学修することを肯定的に捉えており,交流への抵抗感が低いことが示された。
次に,友人あり群は友人なし群より能力IAT得点が有意傾向で低く(t(49) = 1.85, p < .10),人柄IATに有意差がなかった(t(49) = 0.30, n.s.)。
健常学生は身体障害学生に物理的支援(移動介助など)を一方的に行うのではなく,身体障害学生から心理面や学習面などの支援を受けることもある。このような交流経験によって,健常学生は障害者観や能力ステレオタイプが変容した可能性がある。しかし,元々の障害者観がポジティブで能力ステレオタイプが弱い健常学生が,身体障害学生と積極的に交流して友人関係を築いた可能性もある。この因果関係については,詳細に検討する必要があるだろう。なお本研究では人柄IATが両群で負の値となった。すなわち,健常学生は障害者に対し,冷たい人柄のステレオタイプを持ちやすいことが示唆された。栗田・楠見 (2012)の結果と異なった原因は,研究で使用したIAT課題の刺激や協力者サンプルの違いが一因かもしれない。
引用文献
Greenwald, A.G., Nosek, B.A., & Banaji, M.R. (2003). Understanding and using the implicit association test:Ⅰ. An improved scoring algorithm. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 197-216.
河内清彦 (2004). 障害学生との交流に関する健常大学生の自己効力感及び障害者観に及ぼす障害条件, 対人場面及び個人的要因の影響. 教育心理学研究, 52, 437-447.
栗田季佳・楠見 孝 (2012). 障害者に対する両面価値的態度の構造:能力・人柄に関する潜在的-顕在的ステレオタイプ. 特殊教育学研究, 49, 481-492.
小川翔大 (2018). 大学生における肢体不自由者の能力に関する潜在的ステレオタイプと障害者観の関連. 日本教育心理学会第60回総会発表論文集, p.243.
一般的に,健常者は障害者に対して過度な能力の低さや温かい人柄を有するというステレオタイプを持ちやすく(栗田・楠見, 2012),身体障害者との交流に抵抗感を抱きやすい(河内, 2004)。しかし,インクルーシブ教育を推進する大学では,健常学生と身体障害学生が大学生活を通して親密な友人関係を築くことも多い。このような健常者は,障害者と同じ学校で学修することを肯定的に捉え,障害者へのステレオタイプも弱いと考えられる。そこで本研究では,健常な大学生を対象に,障害者の友人の有無による障害者観と潜在的ステレオタイプの違いを検討する。なお,本研究では身体障害の種類を肢体不自由に限定した。
方 法
調査協力者 大学生51名の内,身体障害の友人あり群17名(男性4名,女性13名),友人なし群34名(男性6名,女性28名)であった。
潜在的ステレオタイプ 障害者の能力IAT(小川,2018),障害者の人柄IAT(Table 1)をE-prime3.0(Psychology Software Tools)で作成し,タブレットPC(FKH-00014,Microsoft)で実施した。人柄IATのブロック数・試行数は能力IAT(小川, 2018)と同じにした。IAT得点はGreenwald et al.(2003)の計算式で算出した。各IAT得点は,栗田・楠見 (2012)と同様に,「能力が低い」または「温かい」というステレオタイプが強いほど正の値が大きくなるように処理した。
障害者観 障害者観尺度(河合,2004)を「全く同意できる(6点)-全く同意できない(1点)」で評定させた。下位尺度は,総合教育尺度(「身体障害の子どもは,普通学校の中で十分に活動できる」など8項目),当惑尺度(「身体障害の人とつきあうにはひどく気をつかう」など8項目)の2つであり,下位尺度別に項目平均値を算出した。
結果・考察
友人の有無による得点の違いを検討するため,各尺度及びIAT得点ごとにt検定を行った (Table 2)。結果,友人あり群が友人なし群より総合教育尺度の得点が高く(t(49) = 3.19, p < .01),当惑尺度の得点が低かった(t(49) = 2.49, p < .05)。すなわち,身体障害の友人をもつ大学生は,身体障害者が同じ学校で学修することを肯定的に捉えており,交流への抵抗感が低いことが示された。
次に,友人あり群は友人なし群より能力IAT得点が有意傾向で低く(t(49) = 1.85, p < .10),人柄IATに有意差がなかった(t(49) = 0.30, n.s.)。
健常学生は身体障害学生に物理的支援(移動介助など)を一方的に行うのではなく,身体障害学生から心理面や学習面などの支援を受けることもある。このような交流経験によって,健常学生は障害者観や能力ステレオタイプが変容した可能性がある。しかし,元々の障害者観がポジティブで能力ステレオタイプが弱い健常学生が,身体障害学生と積極的に交流して友人関係を築いた可能性もある。この因果関係については,詳細に検討する必要があるだろう。なお本研究では人柄IATが両群で負の値となった。すなわち,健常学生は障害者に対し,冷たい人柄のステレオタイプを持ちやすいことが示唆された。栗田・楠見 (2012)の結果と異なった原因は,研究で使用したIAT課題の刺激や協力者サンプルの違いが一因かもしれない。
引用文献
Greenwald, A.G., Nosek, B.A., & Banaji, M.R. (2003). Understanding and using the implicit association test:Ⅰ. An improved scoring algorithm. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 197-216.
河内清彦 (2004). 障害学生との交流に関する健常大学生の自己効力感及び障害者観に及ぼす障害条件, 対人場面及び個人的要因の影響. 教育心理学研究, 52, 437-447.
栗田季佳・楠見 孝 (2012). 障害者に対する両面価値的態度の構造:能力・人柄に関する潜在的-顕在的ステレオタイプ. 特殊教育学研究, 49, 481-492.
小川翔大 (2018). 大学生における肢体不自由者の能力に関する潜在的ステレオタイプと障害者観の関連. 日本教育心理学会第60回総会発表論文集, p.243.