[PG35] ノスタルジア体験における対比と反芻特性との関連
キーワード:ノスタルジア、対比、反芻
問題と目的
ノスタルジアは「個人の過去に対する感傷的な思慕」であり,過去への思慕と喪失の悲しみが混在した複雑な感情である(長峯・外山, 2018; Sedikides et al., 2008)。これまで多くの研究により,ノスタルジアはwell-beingや自尊感情の向上に寄与したり,人生への意味づけを促進したりするなど,適応的な機能を持つことが明らかになっている(e.g., Routledge et a., 2012)。しかし,ある特徴を持つ者にとっては,ノスタルジアがむしろネガティブな効果を引き起こし得ることも明らかにされている。
この点に関してGarrido(2018)はネガティブな個人差として反芻特性に着目し,反芻特性が高い場合にはノスタルジア体験時にネガティブな気分(e.g., 悲しみ)を感じやすいことを示した。しかし,なぜ反芻特性が高い場合にノスタルジアによるネガティブな結果が生じてしまうのかについては明らかになっていない。このプロセスを説明できる要因の1つとして,過去の自己と現在の自己との同化・対比がある。
Baldwin, et al.(2015)はノスタルジアが適応的な結果に結びつく理由として,過去と現在の連続性を認知することで,過去の自己が現在の自己へと取り込まれること(同化)を挙げ,逆に過去の自己と現在の自己が時間的に距離のある異なった存在であると感じる(対比)場合にはノスタルジアがむしろネガティブな結果を生じさせる可能性があることを指摘している。この考察を踏まえると,反芻特性が高い場合にノスタルジアによってネガティブな結果が生じるのは,「同化」ではなく「対比」が生じやすいことによって説明できるかもしれない。そこで本研究では,反芻特性の個人差がノスタルジア体験時における対比を予測するかどうかを検討することを目的とする。
方 法
実験参加者:大学生68名(男性35名,女性33名,平均年齢21.03歳(SD=1.17))
手続き:ERT(Sedikides et al., 2015)を用いて参加者をノスタルジア群か日常的記憶群のいずれかにランダムに振り分けた。ノスタルジア群では,ノスタルジアを「個人の過去に対する感傷的な思慕」と定義したうえで,ノスタルジックな出来事を想起するように求めた。日常的記憶群ではありふれた日常の出来事について想起するよう求めた。いずれも6分間の制限を設け,想起内容は具体的に記述させた。
使用尺度:(a)ノスタルジック状態(長峯・外山, 2016),(b)RRQ日本語版のうち反芻特性下位尺度(高野・丹野, 2008),(c)対比(独自作成; 「現在に比べて良かった当時のことについて思い出した」などの9項目)
結果と考察
まず,群分けの操作の確認のためにノスタルジック状態についてt検定を行ったところ,群間差が有意であり(t(66)=5.76, p<.01, d=1.39),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。
続いて,反芻特性について平均値を基準として高・低に分け,対比の得点を従属変数として2(ノスタルジア・日常)×2(反芻高・反芻低)の分散分析を行った(Figure 1)。その結果,群の主効果が有意であり(F(1, 64)=6.08, p<.05, ηp2=.09),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。また,交互作用は有意ではなかったが小さな効果量がみられた(F(1, 64)=1.94, p=.17, ηp2=.03)ため単純主効果の検定を行ったところ,反芻低において群の主効果が有意であり(F(1, 64)=6.67, p<.05, ηp2=.09),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。その他の単純主効果および反芻特性の主効果は有意ではなかった。
これらの結果から,反芻特性の高い個人はむしろ,過去のポジティブな側面に焦点が向かないことでノスタルジアによる不適応的な結果につながっている可能性がある。このことは,反芻特性の個人はノスタルジアを体験した際に過去もしくは現在の自己に関するネガティブな側面に着目してしまっていることを示唆しているかもしれない。
ノスタルジアは「個人の過去に対する感傷的な思慕」であり,過去への思慕と喪失の悲しみが混在した複雑な感情である(長峯・外山, 2018; Sedikides et al., 2008)。これまで多くの研究により,ノスタルジアはwell-beingや自尊感情の向上に寄与したり,人生への意味づけを促進したりするなど,適応的な機能を持つことが明らかになっている(e.g., Routledge et a., 2012)。しかし,ある特徴を持つ者にとっては,ノスタルジアがむしろネガティブな効果を引き起こし得ることも明らかにされている。
この点に関してGarrido(2018)はネガティブな個人差として反芻特性に着目し,反芻特性が高い場合にはノスタルジア体験時にネガティブな気分(e.g., 悲しみ)を感じやすいことを示した。しかし,なぜ反芻特性が高い場合にノスタルジアによるネガティブな結果が生じてしまうのかについては明らかになっていない。このプロセスを説明できる要因の1つとして,過去の自己と現在の自己との同化・対比がある。
Baldwin, et al.(2015)はノスタルジアが適応的な結果に結びつく理由として,過去と現在の連続性を認知することで,過去の自己が現在の自己へと取り込まれること(同化)を挙げ,逆に過去の自己と現在の自己が時間的に距離のある異なった存在であると感じる(対比)場合にはノスタルジアがむしろネガティブな結果を生じさせる可能性があることを指摘している。この考察を踏まえると,反芻特性が高い場合にノスタルジアによってネガティブな結果が生じるのは,「同化」ではなく「対比」が生じやすいことによって説明できるかもしれない。そこで本研究では,反芻特性の個人差がノスタルジア体験時における対比を予測するかどうかを検討することを目的とする。
方 法
実験参加者:大学生68名(男性35名,女性33名,平均年齢21.03歳(SD=1.17))
手続き:ERT(Sedikides et al., 2015)を用いて参加者をノスタルジア群か日常的記憶群のいずれかにランダムに振り分けた。ノスタルジア群では,ノスタルジアを「個人の過去に対する感傷的な思慕」と定義したうえで,ノスタルジックな出来事を想起するように求めた。日常的記憶群ではありふれた日常の出来事について想起するよう求めた。いずれも6分間の制限を設け,想起内容は具体的に記述させた。
使用尺度:(a)ノスタルジック状態(長峯・外山, 2016),(b)RRQ日本語版のうち反芻特性下位尺度(高野・丹野, 2008),(c)対比(独自作成; 「現在に比べて良かった当時のことについて思い出した」などの9項目)
結果と考察
まず,群分けの操作の確認のためにノスタルジック状態についてt検定を行ったところ,群間差が有意であり(t(66)=5.76, p<.01, d=1.39),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。
続いて,反芻特性について平均値を基準として高・低に分け,対比の得点を従属変数として2(ノスタルジア・日常)×2(反芻高・反芻低)の分散分析を行った(Figure 1)。その結果,群の主効果が有意であり(F(1, 64)=6.08, p<.05, ηp2=.09),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。また,交互作用は有意ではなかったが小さな効果量がみられた(F(1, 64)=1.94, p=.17, ηp2=.03)ため単純主効果の検定を行ったところ,反芻低において群の主効果が有意であり(F(1, 64)=6.67, p<.05, ηp2=.09),ノスタルジア群の得点が日常的記憶群よりも高かった。その他の単純主効果および反芻特性の主効果は有意ではなかった。
これらの結果から,反芻特性の高い個人はむしろ,過去のポジティブな側面に焦点が向かないことでノスタルジアによる不適応的な結果につながっている可能性がある。このことは,反芻特性の個人はノスタルジアを体験した際に過去もしくは現在の自己に関するネガティブな側面に着目してしまっていることを示唆しているかもしれない。