[PG40] 中学生の将来に対するマインドセットと主観的幸福感との関連
キーワード:将来に対するマインドセット、主観的幸福感、中学生
問題と目的
スポーツの競技場面でよく用いられている目標設定の技法が,最近では学校教育現場でも導入され,急速に広まっている。その背景には,スポーツでのコーチングが,広く教育現場やビジネス現場でも取り入れられるようになったからである(徳吉他,2012)。目標設定に関する研究は,スポーツ心理学分野において,多岐に渡って行われており,「すべてのアスリートに有効な心理技法」(吉澤,2016)という考えが一般的である。しかし,長年中学校の現場で中学生と共に生活する中で,目標設定プログラムが果たして「すべての生徒に有効なのか」と疑問を抱いた。さらに,目標設定プログラムを実施する際に,個人の将来に対する感情や認知の特性については,ほとんど注目されていないことにも疑問を感じた。そこで,将来に対する感情や認知を「将来に対するマインドセット(MS)」として,将来に対するマインドセットと関連する要因について,主に中学生を対象に検討しているが,本研究では,主観的幸福感との関連について調査・分析することを目的とした。
調査方法
1.調査対象と調査時期
中学2年生228名(男子116名,女子112名)を対象に,2018年7月に質問紙調査を実施した。
2.調査内容
学年,性別をフェイスシートとして尋ねた。使用した心理尺度は,都筑(1999)が大学生を対象に作成した目標意識尺度の35項目のうち,「将来への希望」,「目標意識」,「将来目標の渇望」に関する項目を採用し,さらに人物への憧れに関する項目を3項目加えて,5件法で回答を求め,「将来に対するマインドセット尺度」とした。主観的幸福感は,曽我部(2009)に作成した「青年期における主観的幸福感尺度」を用い,4件法で回答を求めた。
結果と考察
1.将来に対するMS尺度の因子分析
24項目について探索的因子分析を実施し,因子負荷量が.40未満の5項目を削除した結果,19項目で4つの因子を抽出した。先行研究をもとに第1因子を目標意識,第2因子を将来への希望,第3因子を将来目標への渇望,第4因子を人物への憧れとした。信頼性を示すCronbachのα係数は,目標意識が.882,将来への希望が.825,将来目標への渇望が.721,人物への憧れが.765と高い値が示され,内的一貫性が確認された。
2.将来に対するMSと主観的幸福感との関連
将来に対するMSと主観的幸福感とは中程度の正の相関が見られた(r=.4779)。
次に,主観的幸福感への将来に対するMSの下位尺度の影響を重回帰分析したところ,主観的幸福感には,4つの下位尺度のうち,希望と将来目標への渇望の影響が示された(Table)。
希望がメンタルヘルスに影響することは多くの先行研究が示しているが,今回は将来目標への渇望の影響も示された。このことから,中学生においては,希望や渇望といった将来に対する欲望や感情がプラスに高まるようなアプローチが,主観的幸福感には効果的だと考えられる。よって,教育場面で目標設定プログラムを導入する際には,単なる目標設定スキルの習得に終始せず,ポジティブな感情を高める要素が必要だと考えられる。
まとめ
将来に対するMSがポジティブだと,主観的幸福感が高く,主観的幸福感には,希望や将来目標への渇望など,将来に対する感情面の影響が強いことが示された。
スポーツの競技場面でよく用いられている目標設定の技法が,最近では学校教育現場でも導入され,急速に広まっている。その背景には,スポーツでのコーチングが,広く教育現場やビジネス現場でも取り入れられるようになったからである(徳吉他,2012)。目標設定に関する研究は,スポーツ心理学分野において,多岐に渡って行われており,「すべてのアスリートに有効な心理技法」(吉澤,2016)という考えが一般的である。しかし,長年中学校の現場で中学生と共に生活する中で,目標設定プログラムが果たして「すべての生徒に有効なのか」と疑問を抱いた。さらに,目標設定プログラムを実施する際に,個人の将来に対する感情や認知の特性については,ほとんど注目されていないことにも疑問を感じた。そこで,将来に対する感情や認知を「将来に対するマインドセット(MS)」として,将来に対するマインドセットと関連する要因について,主に中学生を対象に検討しているが,本研究では,主観的幸福感との関連について調査・分析することを目的とした。
調査方法
1.調査対象と調査時期
中学2年生228名(男子116名,女子112名)を対象に,2018年7月に質問紙調査を実施した。
2.調査内容
学年,性別をフェイスシートとして尋ねた。使用した心理尺度は,都筑(1999)が大学生を対象に作成した目標意識尺度の35項目のうち,「将来への希望」,「目標意識」,「将来目標の渇望」に関する項目を採用し,さらに人物への憧れに関する項目を3項目加えて,5件法で回答を求め,「将来に対するマインドセット尺度」とした。主観的幸福感は,曽我部(2009)に作成した「青年期における主観的幸福感尺度」を用い,4件法で回答を求めた。
結果と考察
1.将来に対するMS尺度の因子分析
24項目について探索的因子分析を実施し,因子負荷量が.40未満の5項目を削除した結果,19項目で4つの因子を抽出した。先行研究をもとに第1因子を目標意識,第2因子を将来への希望,第3因子を将来目標への渇望,第4因子を人物への憧れとした。信頼性を示すCronbachのα係数は,目標意識が.882,将来への希望が.825,将来目標への渇望が.721,人物への憧れが.765と高い値が示され,内的一貫性が確認された。
2.将来に対するMSと主観的幸福感との関連
将来に対するMSと主観的幸福感とは中程度の正の相関が見られた(r=.4779)。
次に,主観的幸福感への将来に対するMSの下位尺度の影響を重回帰分析したところ,主観的幸福感には,4つの下位尺度のうち,希望と将来目標への渇望の影響が示された(Table)。
希望がメンタルヘルスに影響することは多くの先行研究が示しているが,今回は将来目標への渇望の影響も示された。このことから,中学生においては,希望や渇望といった将来に対する欲望や感情がプラスに高まるようなアプローチが,主観的幸福感には効果的だと考えられる。よって,教育場面で目標設定プログラムを導入する際には,単なる目標設定スキルの習得に終始せず,ポジティブな感情を高める要素が必要だと考えられる。
まとめ
将来に対するMSがポジティブだと,主観的幸福感が高く,主観的幸福感には,希望や将来目標への渇望など,将来に対する感情面の影響が強いことが示された。