日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PH] ポスター発表 PH(01-65)

2019年9月16日(月) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号13:00~14:00
偶数番号14:00~15:00

[PH57] 友人との付き合い方と友人満足度および本来感との関連

野田真未1, 鈴木茜2, 伊與田万実#3, 今井正司4 (1.一宮市立浅井北小学校, 2.名古屋学芸大学大学院, 3.名古屋学芸大学, 4.名古屋学芸大学)

キーワード:本来感、友人関係、Mindfulness Relationship

研究の背景と目的
 本来感とは,「自分らしさ」を表す概念であり,自らの意思や気持ちに基づき素直に生きていることを意味している。本来感は,精神的健康(酒井・河崎, 2018)や心理的well-being(伊藤・児玉, 2005)をはじめとする様々な心理的機能に影響を及ぼすことが知られている(木谷・岡本, 2007)。近年の学校現場においては,子どもたちは特定の「キャラ」を演じるなどして,本来の自分らしさを抑えて生活している実態が報告されている(折笠・庄司, 2017)。また,自分らしくある感覚は,他者が他者らしくあることも大切にする態度に影響を及ぼすことも報告されている(折笠・庄司, 2018)。これらのことから,学校環境を中心とした集団場面や友人関係の構築において「本来感」は欠かせない心理的要素である。しかしながら,日本における若者は関係構築について悩み,疲弊している(菅野, 2008)という現状を考えると,従来的な友人関係のなかで本来感を得るのは困難であることが考えられる。また,友人関係の理想と現実のズレは「自己開示」の影響が強い(吉岡, 2001)ことを考えると,「キャラ」を演じるような「内面的関係の希薄さ」は自己成長を伴う友人関係の妨害要因につながり,本来感が得られにくくなることも考えられる。
 本研究では,対人関係にマインドフルネス(あるがままに受けとめる心的態度)の概念を適応したMindfulness Relationshipsの観点から,友人関係の深さや満足感及び本来感との関連性について検討することを目的とした。
方  法
1. 調査対象と手続き
 東海圏に在籍する大学生117名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた110名の回答を分析対象とした。本研究は名古屋学芸大学における研究倫理委員会の審査承認を受けて実施された(倫理番号:278)。
2. 調査材料
a) Mindfulness Relationships Scale(MRS;今井・鈴木・伊與田, 2018):マインドフルネスな人間関係を測定する尺度として使用した。「優しく向ける対人注意」「共有と伝達」「距離化」で構成されている。
b) 友人関係測定尺度(吉岡, 2001):友人との付き合いの深さを測定する尺度として使用した。「自己開示・信頼」「深い関与・関心」「共通」「親密」「切磋琢磨」で構成されている。
c) 本来感尺度(伊藤・小玉, 2005):自分らしくあるという「本来感」を測定する尺度として使用した。
d) 友人関係満足尺度(姜・南, 2014):友人関係の満足度を測定する尺度として使用した。「意思疎通満足」「相互的受容・理解満足」「自己優先満足」「関係距離満足」「関係維持満足」で構成されている。
結  果
 各尺度間の相関係数を算出した結果,MRSと友人関係は本来感との間に有意な正の相関を示した(MRS:r=.550, /友人関係:r=.365, ps<.001)。下位因子ごとに検討した結果,「共有と伝達」と「距離化」は本来感に有意な正の相関を示した(共有と伝達:r=.495, / 距離化:r=.523, ps<.001)。MRSと友人関係測定は,友人関係満足に有意な正の相関を示した(MRS:r=.319, / 友人関係:r=.689, ps<.01)。
考  察
 本研究の結果を概観すると,友人関係の深さとMindfulness Relationshipsは本来感と友人関係における満足感と有意な正の相関が示された。結果を詳細に検討すると,Mindfulness Relationshipsの「共有と伝達」や「距離化」,友人関係の深さに関する「自己開示・信頼」が本来感と有意な正の相関が示された。これらの結果からは,本来感は従来から指摘されてきた「自己開示・信頼」や「共有と伝達」といった接近的な人間関係とともに、「距離化」のような他者と適切な距離をとれる態度も重要であることが示唆された点はこれまでにない新しい知見であるといえる。今後はMindfulness Relationshipが本来感や友人関係に及ぼす影響について,対人ストレスなどの影響を考慮した実験介入的な検討が期待される