130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T16[Topic Session]Urban Geology: Interdisciplinary research on natural and social environments【EDI】

[2oral512-19] T16[Topic Session]Urban Geology: Interdisciplinary research on natural and social environments

Mon. Sep 18, 2023 3:00 PM - 5:30 PM oral room 5 (27-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:Naoko KITADA, Yoshiyuki TAMURA

3:30 PM - 3:45 PM

[T16-O-13] The Hirao Limestone (Fukuoka) and the Natural Landscape of the Hiraodai Limestone Plateau —Toward Sustaining a Virtuous Cycle of Nature Protection and Utilization—

*Yasuhiro OTA1 (1. Kitakyushu Museum of Natural History & Human History )

Keywords:Paleozoic Era, Permian Period, Hirao Limestone, Hiraodai Limestone Plateau, Fukuoka Prefecture, Natural landscape, Natural environment

平尾石灰岩は,平尾台(福岡県)のカルスト台地を形成し,ペルム紀の付加体である秋吉帯を代表する大型石灰岩体の1つである.この石灰岩体は,苅田・平尾台・香春岳・船尾山の大きな石灰岩露出に対し提案された平尾石灰岩層(松本,1951)とされ,その後,船尾山石灰岩が区分された平尾台石灰岩として取り扱われている(例えば,松本ほか,1962など).
 粗粒の結晶質石灰岩からなる平尾台上の石灰岩体は溶食を被り,全体として被覆カルストのような光景を呈すが,北東部の北平尾台は石灰岩の露出が良く,半裸出のカルスト景観が見て取れ,わが国の自然を記念するものとして国の天然記念物に指定されている(昭和27年11月22日;管理団体北九州市).また自然公園法に基づき,北九州国定公園(昭和47年10月16日)の特別保護区などに指定され自然環境の保全も行われている.加えて平尾台は,保護ゾーン(保護地域),バッファゾーン(緩衝地域),産業ゾーン(産業地域)に分けられ,住民(市民)・行政・企業らによる事前の合意形成に基づくグランドワーク活動が行われている.歴史的に顧みると,カルスト景観の保護と鉱業開発の両義が相反する中で「景観の保護と鉱業による開発に関する初の調整」が行われた地としても知られている(国立公園協会,1955).
 現在,自然の保護と利活用に関する望ましい連鎖(“好循環”)を促進するため,利活用の側面の強化が図られている(例えば,自然公園法の一部を改正する法律(令和3年法律第29号)など).自然の適切な利用と保護を実現するため改めて自然の成り立ちや仕組みなどを問い直す必要性が生じている.
 これらのことから筆者は,平尾台の地質,取分け,露出する石灰岩露頭(石灰岩の凸部)が平尾台の景観形成や自然環境に果たす役割について調査・研究を進めている(例えば,太田,2022).
 今回,保護地域内の石灰岩露出が顕著な北東部(北平尾台:“羊群台”の“羊群原”地域)の石灰岩露頭の露出状況を把握すべく,地表踏査に加えて,地図解析〔GISソフト地図太郎を用いた国土地理院・地理院地図及び同院の空中写真(2009年度版)の重ね合わせ図,並びにそれらに加工・編集をほどこした図等の二次元的観察〕を行った.またその露出状況を広域的に把握するためGoogle Earthなどの画像を活用するなどして検討を試みた
 その結果,野焼き直前と直後では,石灰岩露頭の露出状況が明らかに異なり,景観(“二次的自然景観”)も大きな違いが見られることが確認された.野焼き直後は石灰岩の露出が極めて良く,露頭の輪郭もチャープに捉えることができ,その景観は,直前のカルスト草原とは異質な“荒石原”(佐藤,1928)の相貌を呈していた.これは当地域に分布するネザサーススキ群集が焼かれ,本来の石灰岩露頭が露呈したことに起因すると考えられる.一般に,当地域の景観は,“羊群原”や“羊群台”の名の通り,中生代の火成活動で再結晶化した丸みを帯びた石灰岩が,あたかも羊が群れをなすように草原中に“孤立”した状態で露出・点在しているような印象がもたれる.しかしこの度の調査から,俯瞰的に見ると,概ね北西―南東方向の傾向を有す長軸方向の延びを持った石灰岩露頭の露出が,本地域の景観形成の基盤となっていることがわかってきた.
 平尾台では,地質の違い,つまり石灰岩がもたらす平滑な地形と非石灰岩が作り出す急峻な地形の違いが大きな景観の違いを生みだしている.また北東―南西方向の断層やドリーネ分布に加えて同方向の火成岩脈の貫入が少なからず景観形成に影響を与えている.本調査では,北西-南東傾向の連亘する丸味を帯びた石灰岩露頭が,植物の生育や生活環(野焼きの影響を含め)とともに,平尾台の景観形成に重要な役割を担っていることが確認され,景観形成における重要な地質学的要因であることがわかってきた.
 平尾台の自然景観は,野焼きの実施など四季の変化が大きく,通年での自然観測が必要である.また利活用の促進に伴う影響を含め,自然環境の経年変化や景観形成において重要な役割を担う地質について,さらなる研究が求められる.
引用文献 国立公園協会,1955,日本自然保護協会事業概況報告(第1輯),143p.;松本達郎,1951,北九州・西中國の墓盤地質構造概説.九州大学理学部研究報告.地質学之部,3(2),37–48.;松本達郎・野田光男・宮久三千年,1962,九州地方,日本地質誌.坂倉書店,423p.;太田泰弘,2002,福岡県平尾台に露出する石灰岩露頭(凸部)の傾向と呼称について(予察的研究). 日本地質学会西日本支部 令和4年度総会・第173回例会(島根大学),O–16.;佐藤傳蔵,1928,秋吉臺のカルスト(石灰岩景観)(其一).地質学雑誌,40(9),532–542.