130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T6[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology【EDI】

[3oral201-11] T6[Topic Session]Latest Studies in Sedimentary Geology

Tue. Sep 19, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral room 2 (4-21, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Dan Matsumoto(AIST/GSJ)

9:30 AM - 9:45 AM

[T6-O-22] The incision-free phase of the downstream alluvial system attained through steady cycles of sea-level rise and fall: Verification by 3D tank experiments

*Tetsuji Muto1, Keigo Motomiya2, Yasutaka Iijima2, Kenya Ono2, Junhui Wang3 (1. Nagasaki University, 2. INPEX, 3. China University of Petroleum, Beijing)

Keywords:aggradation, alluvial river, autostratigraphy, degradation, incised valley, non-equilibrium response, sea-level changes, tank experiment

海水準変動のもとで成長する下流域沖積系は,海水準フォーシングに対して非平衡応答 (non-equilibrium response) するのが一般的であり,定常的海水準変動のもとであっても系 (堆積システム) の層序応答 (stratigraphic response) は非定常的に変遷する (Muto et al. 2007 JSR).海水準フォーシングが時間的に不変であっても,系それ自体が成長しサイズを増していくことが原因となって特定の同じ応答を持続できなくなるからである.このように,系の成長は層序記録から海水準変動を考えるときの必須の視点である.一方,既存のシークウェンス層序学は,下流域沖積系の応答は相応規模の海水準変動サイクルの位相と対応し,海水準が同じ位相に来たとき系は同じ応答を繰り返すという仮説を基本としている.このスキームの中では,下流域沖積系は,海水準下降期に浸食谷 (incised valley) の形成など削剥過程 (degradation) が進行する傾向にあり,そして上昇期には埋積過程 (aggradation) が進行する傾向にあると説明されることが多いが,フィジカルな根拠で裏付けられているわけではない.
 Wang & Muto (2021 Sedimentology) は,定常的海水準変動サイクルを模した二次元水槽実験により,各サイクルの中で進行する下流域沖積系の地形・地層形成過程がサイクル数の進行に伴って変遷することを初めて示した.次のサイクルで起こることは前のサイクルで起こったことの単純なリピートではなく,非平衡応答それ自体もサイクル数の経過に伴って変遷する.例えば,早期サイクルの海水準下降期に顕著な浸食谷を生じたとしても,多数回のサイクルを経て下流域沖積系が十分に成長していれば,以降のサイクルのどのタイミングにおいても全系的な下刻・削剥を生じない無下刻フェイズ (incision-free phase) に到達する.有下刻フェイズ (incision-inclusive phase) から無下刻フェイズへの転換のタイミング (経過サイクル数) は二次元オート層序学的長さスケールΛ2Dで無次元化したサイクル振幅Abl*と比例関係にあることが示唆されている.
 この新奇な知見が三次元セッティングの下流域沖積系でも成り立つか否かを調べるため,演者らは長崎大学の三次元実験水槽を使用して12ランに及ぶモデル実験をおこなった.この実験シリーズでは,全ランを通じて,基盤地形,初期水深,堆積試料,給砂量,水流量を固定した.水位変動サイクルは対称形とし,水位変動速度 (Rbl) の大きさは上昇期と下降期とで等しく,上昇・下降を繰り返すたびに水位は初期水位の位置に戻る.ラン毎に系統的に変えたのは水位変動速度,周期 (2Tbl),振幅 (Abl = RblTbl) である.この条件のもとで,既存堆積物が無い状態から下流域沖積 (〜デルタ) 系を10時間前後にわたって成長させた.実験結果はおおむね次のように要約される.(1) 早期サイクルにおいては,下降期に深い浸食谷 (incised valley) が生じた.上昇期には浸食谷の埋積が進み,上昇期の終わり頃には浸食谷は消失するが,後続の下降期に入ると再び浸食谷が生じた (i.e., 有下刻フェイズ).(2) サイクル数の進行につれて下降期の下刻量が減少する傾向にあった.(3) 晩期サイクルにおいては,下降期に浸食谷が形成されず,下降期と上昇期を通じて埋積傾向が持続することがあった.12ランのうち10ランで,この無下刻フェイズが実現した.(4) 有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換が起こるタイミングは三次元オート層序学的長さスケールΛ3Dで無次元化したサイクル振幅Abl*に比例する.
 二次元実験で観察されたことと基本的に同じことが三次元実験でも観察された.無下刻フェイズの実現が物理的に可能である (少なくとも,物理的に不可能ではない) ことが確認されたことから,条件さえ揃えば,天然の下流域沖積系でも海水準変動サイクルの進行により無下刻フェイズが実現しうると想像される.有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換のタイミングが無次元パラメータの関係式で表現できることは注目に値する.海水準変動がどんなに急激かつ大規模であろうとも,同じパターンの上昇・下降サイクルが繰り返される限り,有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換が実現することが示唆される.露頭・ボーリング試料・震探断面などから得られた下流域沖積系の層序記録に顕著な浸食谷の痕跡が認められる場合,それはその系が最終的に無下刻フェイズへと至る遷移過程の一場面を捉えたものとして理解できるかもしれない.