一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスターG4

2020年11月7日(土) 15:10 〜 17:10 C会場

[認定P-19] 歯性感染症から縦隔炎に至った全身疾患を有する高齢者の1例

○津川 恵里子1 (1. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野)

【目的】
 全身疾患を有する高齢者は抵抗力の低下から炎症が重症化し全身に波及しやすいことが知られている。今回全身疾患を有する高齢者が、歯性感染症から重度の縦隔炎に至った症例を報告する。
【症例】
 73歳男性、ADLは自立。既往歴には糖尿病、胃がん(全摘後)、膵臓部分切除、胆嚢摘出。内服薬は、ボグリホース、レパグリニド、クエン酸鉄Na、メコバラミン、シタグリプリチンリン酸塩水和物であった。
【経過】
 2019年8月右側の歯の痛み、背部痛、臍周囲痛があり食事摂取できず、発症から2日後かかりつけ医を受診し入院となった。さらに2日後、炎症反応上昇あり縦隔に及ぶ右咽頭後膿瘍を認め手術目的に当院医学部ERに転送となった。CTにて頚部~腎付近及び大動脈周囲にも膿瘍を認め、頚部切開排膿、緊急開胸ドレナージ術が施行された。当院入院4日後、医学部ERより往診依頼を受け、歯科訪問した。下顎に多数の残根を認め縦隔炎の感染源と推測されたため、全身状態回復後早急な抜歯を行うこととした。入院18日目再度訪問時、血小板数4.5万/μlと出血リスクが高かったため、血小板10単位を輸血し、翌日、下顎残根をプロピトカイン塩酸塩・フェリプレシン注射液にて浸潤麻酔後に抜歯し、縫合した。入院24日目に創部経過は良好であったため抜糸し、SP処置を施行した。同日CT上、膿瘍縮小傾向となっていたため入院38日目にドレーン類を全て抜去した。入院55日目全身状態が安定したため転院となった。
【結果と考察】
 今回、う蝕歯が原因と思われる炎症が縦隔から大動脈に波及し全身状態の悪化を招いた症例を報告した。高齢かつ糖尿病患者であるため、易感染状態が引き金となった可能性がある。全身疾患を有する高齢者は、日頃から口腔内を清潔にするとともに炎症の要因となる病巣は早期に除去しておくことが望ましいと考えられる。
 また、有病高齢者の抜歯においては、事前に血液検査で出血傾向を調べ対策と処置を検討しておく必要があると考えられる。