The 35th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター)

一般演題(ポスター発表) » 症例・施設-1

症例・施設-1(質疑応答)

Sat. Jun 29, 2024 2:20 PM - 3:20 PM ポスター会場 (大ホールC)

[P-69] 後期高齢者に発症した顎関節症様の症状から失明に至った巨細胞性動脈炎の1例

○臼田 頌1、黄地 健仁2、中川 種昭1、堀江 伸行1 (1. 慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室、2. 東京歯科大学 生理学講座)

【緒言・目的】
頭痛や顎関節症を含む口腔顔面領域における慢性痛の原因として一番多い病態が筋筋膜痛である。その割合は60%以上と言われており,高齢者においても同様である。顎関節症の中でも筋筋膜痛が原因である咀嚼筋痛障害は「持続性の中等度の鈍痛」や「咀嚼時痛」という症状を呈するが,50歳以上に発症する巨細胞性動脈炎も同様の臨床症状を示す。今回われわれは,顎の痛みの訴えから当科受診までの間に失明を生じた巨細胞性動脈炎の患者を経験したので報告する。
【症例および経過】
89歳,女性,当科にて歯周病の長期メンテナンス中であった患者。X年1月18日に顎の痛みのため口が開きにくいとの電話があり1月22日の予約を取得した。しかし,1月19日に両側視野低下を自覚,21日に症状増悪のため近眼科を受診,当院眼科へ紹介された。視神経乳頭浮腫による視神経障害の診断下で緊急入院となり,ステロイド投与が開始された。1月22日に当科を受診時には視力が消失していた。食事中に顎の疲労感と痛みが増加する顎跛行の所見を認め,触診にて浅側頭動脈の怒張を確認し,視覚障害と併せ巨細胞性動脈炎が疑われた。眼科,リウマチ・膠原病内科と連携・精査を行ったところ,血液検査でESR 118mm/h と高値を認め,浅側頭動脈の生検にて巨細胞性動脈炎と確定診断された。
当院リウマチ・膠原病内科にてステロイドパルス療法(PSL1g 3days),トシリズマブ皮下注射併用療法を施行。その後,経口ステロイド療法(PSL35mgから開始)へ移行した。疼痛については改善したが,視力の回復には至らなかった。
【考察】
巨細胞性動脈炎は10万人に1.4人と比較的まれな指定難病ではあるが,失明に至ることもある内科的緊急疾患である。約半数で顎跛行を生じ,本症例のように顎の症状を主訴に歯科口腔外科を受診する可能性は高い。特に高齢者では自身の症状の表現が十分でない場合も想定され,一般的な咀嚼筋痛障害などと診断してしまう可能性がある。巨細胞性動脈炎だけでなく,頭蓋内病変や心臓性歯痛などのRed Flagと呼ばれる重篤な疾患群は,高齢者で発症しやすくかつ迅速な診断が必須となるため,高齢者医療では常にこれらの病態の特徴を頭に入れて丁寧な鑑別を行う必要がある。
COI開示:なし
(慶應義塾大学 倫理審査委員会承認番号 20180033)