第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD1] 訪日・在留外国人へのクリティカルケア

企画:吉村 弥須子(森ノ宮医療大学)

[PD1-1] 訪日・在留外国人に対する診療とクリティカルケアの現場で求められる看護職の役割

○大橋 一友1 (1. 大手前大学国際看護学部)

キーワード:外国人診療、Limited Japanese Proficiency

 外国人患者という言葉の定義はあいまいであり、日常診療では「日本語で十分にコミュニケーションがとれない」という意味を示すLimited Japanese Proficiency (LJP)患者という言葉が用いられ始めています。この言葉には外国人や外国籍に限定せず、日本語というコミュニケーションの道具を適切に使えないすべての患者を含んでいます。つまり、日本語が理解できないのは外国人だけではないということを意味しています。そこで本パネルディスカッションでは、LJP患者診療の一般的な注意点を述べ、次にクリティカル期にある重症患者のケアについてお話したいと思います。
 LJP患者を考える第一歩は日本語能力と日本の医療文化理解度を評価することです。さらに日本語能力の評価には会話力と文章読解力を確認することが重要であり、まず、日本語の会話力を評価し、次に日本語の文章読解力を評価します。両方の能力が高い場合には日本人と変わらないケアでよいわけですが、文書読解力が低い場合には患者の第一言語で書かれた文書を準備する必要があります。また、日本語会話が不十分な場合には、看護師はやさしい日本語もしくは医療では世界共通語である英語によってコミュニケーションをとることが重要になってきます。看護師は一般的な英会話を学ぶのではなく、専門用語もしくは問診に関わる用語の英語を学ぶ必要があると考えます。大手前大学では1年生よりPractical English for Nursesという科目を設けており、1年生から4年生まですべての学年の学生が英語に取り組むシラバスを用いています。また、現役の看護師のためのPractical Englishのセミナーを計画しています。もし患者が日常的な日本語しか理解できず、英語もわからない場合には、医療通訳にお願いすることになります。厚生労働省を中心となって行っている様々な医療通訳の養成・配置事業がありますので、積極的な利用が必要だと思われます。しかし、厚生労働省による外国人患者受入れ対象機関認証(JMIP)を受けた5医療機関からの聞き取りによりますと、外国人患者受け入れ態勢整備には外国人患者一人当たり3~4万円程度かかるといわれており、この負担を誰が行うかの決定には至っていません。さらに、LJP患者の診療には医療コーディネーターが重要ですが、十分な養成はできていません。
 クリティカル期にある重症患者のケアの場面では、看護師が接する対象者は患者本人以外に、患者家族や友人などになる場合も多いと思われます。また、病院以外で起こる交通事故や心停止などの場合であっても前述した診療の基本は全く同じですが、医療文化の違いが大きく出てくると思われます。これらに対応するためにはあらかじめシミュレーションを行っておくことが重要であり、医療コーディネーターの重要性がさらに増すように思います。今後、臓器移植コーディネーターやがんゲノム医療コーディネーターのように、外国人診療における医療コーディネーターの養成も急務であると思われます。
 2019年に日本を訪問した外国人は3000万人をこえ、これらの方々は救急診療のため日本中どこの医療機関にかかる可能性があります。さらにCOVD-19の感染の蔓延もあり、これらの対象者のケアについても各医療施設で予め十分に検討しないといけないと考えます。