[PD1-04] 院内救急看護の現状と今後の課題
キーワード:救命救急センター、救急外来、救急外来看護
院内救急看護は病院内の救急部門(ER、救急ICU、救急病棟)や救急部門以外(ICU、一般病棟、外来部門など)において救急患者や救急処置が必要な入院患者・外来患者などを対象に実践される。今回は、ERにおける院内救急看護に焦点を当て、実践者の立場から院内救急看護の提供システムの変化について問題提起する。
当院は約800床の高度急性期医療を担う地域の中核病院であり、2013年より高度救命救急センターの指定を受けている。高度救命救急センターはER、ICU(救急ICUと院内ICUを兼ねる)、救急センター病棟の3部署から構成される。救急搬送数県内一であり、地域救急医療の最後の砦としてER型救急医療を行っている。
今回、2010年度~2019年度の10年分のデータを分析すると、救急患者の高齢化の実情が明らかになった。当院ER受診患者数(救急搬送とwalk inによる受診の合計)は約30,000~34,000名/年で推移しており、10年間で大きな変化はなかった。一方で65歳以上のER受診患者数は年々増加しており、2010年度6,941名/年から2019年度 8,331名/年へ、10年間で20%増加した。救急搬送数は年々増加傾向であり、2010年度 6,506台/年から 2019年度 7,132台/年へ9.6%増加した。65歳以上の救急搬送患者は2010年度 3,460名/年から2019年度 4,305名/年へ24.4%増加しており、救急搬送患者全体の6割を占める。2019年度の救急搬送における入院率は43.0%であり、入院患者数は10年前より11.6%増加した。これらのデータは、人口の高齢化により救急患者が高齢化・重症化していることを示している。救急患者の高齢化に伴い、救急看護実践のうち、生活行動援助、いわゆる介護に費やすマンパワーが大きくなりつつあると同時に、高齢患者への救命処置・延命処置に関する倫理的問題に直面する機会が多くなっている。
数値としてデータ化はできていないが、ERで勤務している実感として、社会的問題を抱えた患者も増加傾向にあるように感じる。ERは、独居・身寄りなし、家族が遠方在住または疎遠、無保険、自殺企図、精神疾患、家庭内暴力・虐待など様々な問題を抱えた生活者の駆け込み寺のようになっており、対応に苦慮することも少なくない。また、介護者がいる場合にも、介護力が限界に達し帰宅困難となる高齢患者もいる。
さらに、救急看護の提供システムへの新たな脅威としてCOVID-19感染がある。感染への不安・恐怖を抱えながら、全てのER受診患者の感染リスクをスクリーニングし、COVID-19疑似症への感染予防策を徹底することは、マンパワーを大きく消耗し、通常診療に影響を及ぼす。
以上より、現在、ERにおける救急看護の提供システムは、救急患者の高齢化・重症化、社会的問題、およびCOVID-19感染の脅威により、マンパワー不足に陥り崩壊するリスクを抱えているのではないかと考える。また、現代の救急看護には、救急処置が必要な患者に対する処置やケアの実践といった本来の救急看護に加えて、高齢者看護・地域看護の要素も求められているのではないだろうか。救急看護が危機に立ち向かっていくためには、これらの問題・課題に対応していく必要がある。今後の救急看護の提供システムのあり方について皆さんと一緒に考えていきたい。
当院は約800床の高度急性期医療を担う地域の中核病院であり、2013年より高度救命救急センターの指定を受けている。高度救命救急センターはER、ICU(救急ICUと院内ICUを兼ねる)、救急センター病棟の3部署から構成される。救急搬送数県内一であり、地域救急医療の最後の砦としてER型救急医療を行っている。
今回、2010年度~2019年度の10年分のデータを分析すると、救急患者の高齢化の実情が明らかになった。当院ER受診患者数(救急搬送とwalk inによる受診の合計)は約30,000~34,000名/年で推移しており、10年間で大きな変化はなかった。一方で65歳以上のER受診患者数は年々増加しており、2010年度6,941名/年から2019年度 8,331名/年へ、10年間で20%増加した。救急搬送数は年々増加傾向であり、2010年度 6,506台/年から 2019年度 7,132台/年へ9.6%増加した。65歳以上の救急搬送患者は2010年度 3,460名/年から2019年度 4,305名/年へ24.4%増加しており、救急搬送患者全体の6割を占める。2019年度の救急搬送における入院率は43.0%であり、入院患者数は10年前より11.6%増加した。これらのデータは、人口の高齢化により救急患者が高齢化・重症化していることを示している。救急患者の高齢化に伴い、救急看護実践のうち、生活行動援助、いわゆる介護に費やすマンパワーが大きくなりつつあると同時に、高齢患者への救命処置・延命処置に関する倫理的問題に直面する機会が多くなっている。
数値としてデータ化はできていないが、ERで勤務している実感として、社会的問題を抱えた患者も増加傾向にあるように感じる。ERは、独居・身寄りなし、家族が遠方在住または疎遠、無保険、自殺企図、精神疾患、家庭内暴力・虐待など様々な問題を抱えた生活者の駆け込み寺のようになっており、対応に苦慮することも少なくない。また、介護者がいる場合にも、介護力が限界に達し帰宅困難となる高齢患者もいる。
さらに、救急看護の提供システムへの新たな脅威としてCOVID-19感染がある。感染への不安・恐怖を抱えながら、全てのER受診患者の感染リスクをスクリーニングし、COVID-19疑似症への感染予防策を徹底することは、マンパワーを大きく消耗し、通常診療に影響を及ぼす。
以上より、現在、ERにおける救急看護の提供システムは、救急患者の高齢化・重症化、社会的問題、およびCOVID-19感染の脅威により、マンパワー不足に陥り崩壊するリスクを抱えているのではないかと考える。また、現代の救急看護には、救急処置が必要な患者に対する処置やケアの実践といった本来の救急看護に加えて、高齢者看護・地域看護の要素も求められているのではないだろうか。救急看護が危機に立ち向かっていくためには、これらの問題・課題に対応していく必要がある。今後の救急看護の提供システムのあり方について皆さんと一緒に考えていきたい。