一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2024年9月12日(木) 10:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:黒澤 正紀(筑波大学)、北脇 裕士(中央宝石研究所)

10:50 〜 11:05

[R1-04] 宝飾用合成カラー・ダイヤモンドの特性評価と宝石鑑別

*北脇 裕士1、江森 健太郎1、久永 美生1、山本 正博1 (1. ㈱中央宝石研究所)

キーワード:メレサイズ、合成ダイヤモンド、ファンシー・カラー・ダイヤモンド、CVD、HPHT

宝飾用に供される合成ダイヤモンドのサイズおよび品質は年々向上しており、現在ではカット研磨後に50ctを超える大型の無色石も製造が可能である。いっぽうで、メレサイズ(0.2ct未満の小粒石)の各色のファンシーカラー・ダイヤモンドもジュエリーの素材として利用され始めている。宝飾用合成ダイヤモンドの製造はHPHT法とCVD法の2つの製法が用いられているが、両者では得られた製品の諸特徴が異なるためにそれぞれについて理解を深めておくことは宝石鑑別にとって重要である。
 本研究では、CVD合成ダイヤモンドとして市販されていた0.1 ct未満の小粒の合成ファンシーカラー・ダイヤモンドを入手し、その特性評価を行い、鑑別特徴について検討した。試料はGreen、Greenish Blue、Yellow、Pink、Orangy Pink、Reddish Orange、Orangeの7種類の色に分類し、それぞれ5個ずつ計35 個を用いた。これらについて宝石顕微鏡による観察、赤外吸収スペクトルおよび紫外-可視吸収スペクトルの測定、DiamondViewTMによる深紫外線蛍光像の観察、顕微Raman分光装置を用いての457nm、488nm、514nm、633nmおよび830nmレーザーによるフォトルミネッセンス分析(PL)を行った。結果的にOrangeの2 個のみがCVD合成法で製造されたもので、他の33 個はHPHT合成法で製造されたものであった。
 GreenおよびGreenish Blueについては、赤外吸収スペクトルで窒素が検出限界未満であり、紫外-可視吸収スペクトルとPLスペクトルで明瞭な741 nm(GR1)が観察された。また、GreenからはPLスペクトルにてGR1 (741 nm)より強い575 nm ( NV0)と 488.9nm、470.2nm(TR12)が検出された。深紫外線蛍光像の観察でHPHT合成特有の像が得られたが、Greenは黄橙色、Greenish Blueは青緑色の蛍光を呈した。これらのことからGreenおよびGreenish Blueには放射線照射が行われているが、Greenish Blueはさらに低温下(500℃程度)のアニールが施されていると考えられる
 Yellowは赤外吸収スペクトルから高濃度のAセンタを有するⅠa型であリ、微弱なCセンタおよび3107cm-1が検出された。さらにPLスペクトルにおける544.5nmおよび523.8nmの存在などから、HPHT合成後に放射線照射とHPHT処理が施されたと考えられる。
 Pink、Orangy Pink、Reddish Orange、Orangeは赤外吸収スペクトルで微弱な窒素関連の吸収が見られた。これらの色調のものにはすべてにおいて非常に強い575nm ( NV0)とそれよりも弱い637nm( NV-)のPLピークが見られた。また、Reddish Orangeには741 nm(GR1)が紫外-可視吸収スペクトルとPLスペクトルの双方に見られた。このようにPink~Orange系の色調のものは合成後に放射線照射とアニーリング(800℃程度)が施されることで575nm ( NV0)、637nm( NV-)および741 nm(GR1)が形成され、これらの強弱により色調が変化するものと考えられる。また、Orangeの2個については深紫外線蛍光像の観察とPLスペクトルの 737nmの存在からCVD法で合成されたことが明らかとなった。
 本研究では、メレサイズのファンシーカラー合成ダイヤモンドについてルースの状態で検査を行いその特性を評価した。CVD合成石として入手したが、CVD合成とHPHT合成が混在し、放射線照射やHPHT処理など複数の処理が施されていた。これらがジュエリーにセッティングされた状態で検査に供された場合、分析手法に制限がかかり、得られる情報が限定的となることも予測される。したがって、合成法や処理の特性を十分に理解し、鑑別に臨むことが重要である。
R1-04