一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2024年9月12日(木) 10:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:黒澤 正紀(筑波大学)、北脇 裕士(中央宝石研究所)

11:45 〜 12:00

[R1-07] 宝石品質のジルコンとサファイアの年代測定とその原産地同定への応用;オーストラリア、ニューサウスウェールズ州、ニューイングランド地方のサファイア鉱山からの研究例

*阿依 アヒマディ1 (1. Tokyo Gem Science LLC.)

キーワード:ジルコン、サファイア、U-Pb年代測定、原産地、LA-ICP-MS

宝石品質のジルコンは、玄武岩質由来の残積層と漂砂層のサファイア/ルビー鉱床によく見られ、コランダムと同様に耐久性が高く、宝飾品として古くから使用されてきた。このようなジルコンは、オーストラリア東部、東南アジア、ロシアの大陸縁辺、アフリカ、マダガスカルに沿って広く分布している。また、内包物として変成岩と玄武岩起源のルビー/サファイアにも含まれている。地球化学的な年代測定法は鉱物試料に広く用いられているが、LA-ICP-MS分析装置によるU-Pb年代測定法は1990年代後半から宝石分野へ導入するようになり、オーストラリアのクインズランド産ブルー~グリーンサファイア、2015年以降に、ミャンマー、マダガスカル、スリランカ産などのブルーサファイアに含まれる微小なジルコン結晶を直径30~20ミクロンのエキシマレーザーで短時間照射し、U-Pb年代測定を行うようになったが、内包物であるジルコンを表面露出するまで研磨しなければならない。また、宝石の原産地を正確に同定するために、内包物の識別や分光分析や微量元素によるフィンガープリントの組成分類法などが応用されているが、U-Pb年代測定による年代情報から原産地同定への応用例は少ない。年代測定の研究例として、本発表の前半では、オーストラリア東部、ニューサウスウェールズ州、ニューイングランド地方のインベレル地区の白亜紀後期-新生代アルカリ玄武岩に関連する漂砂コランダム鉱床で発見されたジルコン斑晶について、LA-ICP-MS分析技術を用いた化学組成と地質年代学的データを提示する。インベレル地区に分布するキングスプレーンズ(Kings Plains)、スワンブルック(Swan Brook)、メアリーアンガリー(Mary Anne Gully)の3つの産地では、宝石品質の透明なブラウンとイエローのジルコンが産出され、そのほとんどが10mm未満。ブラウンジルコンはHfとREEの相対的な濃縮を示すが、色間の相対的な遷移金属元素の濃度に違いがなく、単結晶内の化学的均一性は、安定した結晶化条件を示す。3つの産地からのジルコンの206Pb/238U年代は、それぞれ174-216 Maと37.7-45 Maの古いグループと若いグループに分けられる。このインベレル地区の漂砂鉱床から産出されたジルコンには、三畳紀後期-ジュラ紀前期と始新世のエピソードの前後で、2つの主な形成時期があった。ほとんどはリソスフェアマントルに由来し、その後ホスト玄武岩質のマグマによって地表にもたらされた。発表の後半では、インベレル地区のブルーサファイアに含まれる縦幅60~100ミクロン、横幅30~40ミクロンのジルコンインクルージョンを標的とした年代測定例を報告する。その結果、206Pb/238Uの平均年齢は34.9±1.4 Maが得られた。形態的特徴に基づいて、ジルコンはサファイア内部に共生インクルージョンとして観察され、サファイアの成長とジルコンインクルージョンの成長はほぼ同じ形成年代があることが示された。したがって、インベレル地区のブルーサファイアは始新世の間に形成され、始新世後期の火山噴火に関連している可能性があると推定される。 異なる鉱床からのコランダムは、異なる地質時代に形成された可能性があり、年代測定法は、原産地の同定に役立つ証拠となり得る。