一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:則竹 史哉、永嶌 真理子、徳田 誠(熊本大学)

09:50 〜 10:05

[R2-04] フッ素アパタイト中の水素拡散における研磨状態の影響評価と拡散メカニズムの推定

「発表賞エントリー」

*吉元 史1、坂口 勲2、伊藤 正一1 (1. 京都大学、2. 物質・材料研究機構)

キーワード:アパタイト、水素、拡散、SIMS

含水鉱物の水素同位体組成は地球などの太陽系天体における水の起源・進化を評価するための指標として利用されてきた.アパタイトは構造中にヒドロキシ基として水素を含んでおり,太陽系のさまざまな惑星天体に遍在している.アパタイトは他の含水鉱物に比べて変成・変質に強いため水素同位体組成を測定する対象として有用である.しかし,アパタイト中の水素同位体組成は拡散現象によって形成時の組成から変化し得るにも拘らず,拡散が起きていない仮定のもとアパタイト水素同位体組成が測定されてきた.したがって,太陽系天体の水の起源・進化を制約するには,実験により拡散係数を求め,アパタイト中の水素同位体組成変化を評価する必要がある.先行研究のHigashi et al. (2017)では,2H2Oを拡散源としてフッ素アパタイトのフロー型の拡散実験を行い,二次イオン質量分析計(SIMS)による深さ方向分析によってc軸に平行な方向の拡散プロファイルを取得し,500 °C,600 °C,700 °Cにおける拡散係数を求めた.先行研究では拡散プロファイルの表面付近でのみのフィッティングから拡散係数を求めている.このことから研磨による傷や結晶の持つ欠陥等を通ることで早く拡散し(高速拡散),格子拡散の拡散係数を得られていないことが考えられる.つまり,格子拡散と高速拡散の加重平均となり,自己拡散係数を正確に推定できていない可能性があった. そこで本研究では,先行研究での研磨よりさらに粒度の低い振動研磨法で実験試料の最終研磨を行い,アパタイト表面での損傷を軽減することを試みた.550 ℃,600 °C,650 °C,700 °Cの各温度で2H2Oを拡散源としたc軸方向の実験により得られた試料に対してSIMSを用いて深さ方向の拡散プロファイルを取得した.フィックの第二法則に基づいたフィッティングでは,すべての条件で表面のみならずよくあうフィッティング結果がえられ,550-700℃での拡散係数の温度依存性は以下のように得られた.
D=1.89×10-6exp⁡(-(205±11[kJ/mol])/RT) [m2/s]
これは,Higashi et al.(2017)によって報告された高速拡散の影響が減少していることを示している.これらの拡散係数は,格子拡散によるアパタイト中の水素自己拡散係数であり,代わりに採用されるべきである.また,拡散の活性化エネルギーはwet条件下での酸素拡散(Farver and Giletti, 1989)と一致したことから,アパタイト中では酸素と同様のメカニズムで水素が拡散することが示唆された.さらに,より詳細な拡散メカニズムの議論および,拡散係数の天然への適用のためにc軸方向に加えてc軸に垂直な方向の拡散係数の取得c軸鉛直方向の実験を試みたが,フィッティングの合う領域は表面付近のみであった.確度の良い拡散係数を得るため,700 ℃でのwet flowによるプレアニールを行い,更なる転位の除去を試みた.フィッティングはよく合い,さらにプレアニールを行なっていない実験結果とアレニウスプロット上で一直線上に乗る結果となった.これら全てのデータによる拡散係数の温度依存性は以下.D=9.77×10-6 exp⁡(-(208±27kJ/mol])/RT) [m2/s]
活性化エネルギーはc軸方向のものと誤差の範囲で一致し,拡散係数はおよそ3倍であった.また,活性化エネルギーが一致するため,同様のOHを拡散種とする拡散が起きており,拡散係数の違いは幾何学的な距離によるものであることを提案する.
R2-04