一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:則竹 史哉、永嶌 真理子、徳田 誠(熊本大学)

10:30 〜 10:45

[R2-06] 下部四万十層群佐伯亜層砂岩中に産するフランボイダルゲーサイトの成因

*大藤 弘明1、小西 星良1、山本 啓司2 (1. 東北大・院理、2. 鹿児島大・理)

キーワード:フランボイダルゲーサイト、フランボイダルパイライト、粘土鉱物、変質作用

はじめに
 木苺状のフランボイダル組織は,顕微的なパイライトにおいてごく普遍的に見られるユニークな結晶化組織である.フランボイダルパイライトは,堆積岩中および現世堆積物中に広く産出し,そのサイズ分布は生成時の周囲の酸化還元環境の指標としても使われている.一方,例はそう多くはないが,ヘマタイトやゲーサイトなどの酸化,水酸化鉄からまりフランボイダル集合体も報告されている.それらはフランボイダルパイライトの仮像であると考えられているが,鉱物学的に詳細に調べられてはいない.一部の炭素質コンドライト隕石中にはフランボイダルマグネタイトが含まれ,それらは水熱反応により直接自生したと考えられているが,地表においても同様にパイライト以外の酸化鉄でもフランボイド状組織が形成されるかどうかは興味のあるところである.
 本研究では,鹿児島県西部に分布する四万十層群佐伯亜層の砂岩中に含まれる酸化鉄よりなるフランボイダル集合体(江上ほか,2021)に着目し,微細組織と局所化学組成を調べ,その成因を検討した.

研究手法
 本研究では,江上ほか(2021)で研究に使用された鹿児島県西部北薩地域西目地区に分布する下部四万十層群佐伯亜層群相当層より採取した,暗色球状粒子を多数含む砂岩試料を使用した.砂岩試料をエポキシ樹脂中に包埋して機械研磨したブロック試料と薄片試料をSEM-EDSで観察し,フランボイダル粒子の砂岩中での産状や組織の特徴と周辺領域を含めた化学組成分布を調べた.また一部のフランボイダル粒子からは集束イオンビームを用いて薄膜を切り出し,TEM(STEM-EDS)による微細組織観察と電子線回折による鉱物相の同定を行った.

結果と考察
 観察の結果,フランボイダル粒子は砂岩中の局所に濃集して分布し,しばしばクラスター(ポリフランボイド)を形成していた.その周辺部には,変質によって生じた粘土鉱物が共存しており,石英,長石などの砕屑物の一部の交代変質や溶解の痕跡が普遍的に認められたが,パイライトや硫酸塩鉱物など硫黄を含む鉱物は一切認められなかった.フランボイダル粒子は後述するTEM観察(電子線回折)の結果,江上らが報告していたヘマタイトではなく,ゲーサイトで構成されることが分かった.フランボイダル粒子の多くは,構成マイクロクリスタルの粒間が充填されて境界が不明瞭になっており(infilled framboids),EDS分析の結果,それらの粒間にはSiやAlの局所濃集が観察され,変質粘土がフランボイド内部にも生じていることが分かった.
 FIBを用いてフランボイダル粒子から切り出した薄膜のTEM観察では,マイクロクリスタルの内部および外部に同心円状の組織が観察され,それらが数十nmほどの微細なゲーサイトのナノクリスタルの層と粘土鉱物およびアモルファスシリカを主体とする層より構成されることが分かった.ゲーサイトの結晶はマイクロクリスタルの界面から内側へ向かって伸長成長しており,おそらく前駆体のパイライトのマイクロクリスタルを交代して形成されたことが明らかとなった.またマイクロクリスタルの界面より外側に向かって伸長成長したゲーサイトの被覆層も観察され,これがオリジナルのマイクロクリスタル粒間を埋めた結果,infilled組織が形成されたと推測された.以上の観察結果より,フランボイダルゲーサイトは,続成過程で地層中の間隙に生じたフランボイダルパイライトが酸化を受けてゲーサイト化した仮像であると結論付けられる.