一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 14:00 〜 15:30 ES024 (東山キャンパス)

座長:小松 一生

14:00 〜 14:30

[R2-12] 黄鉄鉱型化合物の構造安定化と陰イオンの化学結合性

「招待講演」

*吉朝 朗1、徳田 誠1、北原 銀河1、中塚 晃彦2、杉山 和正3 (1. 熊本大学、2. 山口大学、3. 東北大学)

キーワード:AuSb2、RuS2、pyrite-type compounds、single crystal diffraction、Debye temperature

FeS2黄鉄鉱は、天然に広く産出する代表的な硫化物で、高度6.5で鉄よりも硬い。MnS2ハウエル鉱は、高度4で脆い。黄鉄鉱型化合物の遷移金属は多くが低スピン状態で、Mn系の化合物など高スピン状態の例は少なく、エネルギーの高い低スピン状態を多くが取っている。鉄・金・白金族遷移金属のニクトゲン(第15族元素)およびカルコゲン(第16族元素)化合物の多くが黄鉄鉱型をとる。黄鉄鉱型化合物は、多様な物性を有し、席対称性の高さに起因した系統的でユニークな結合距離やスピン状態変化が観測される[1-3]。単結晶構造解析では結晶構造の詳細に加え、Debye-Waller因子から各サイトのDebye温度θD等の原子の動的挙動を観測することができる[1-3]。Debye温度は硬度や融点に関連した物質の固有値である。今回、黄鉄鉱型化合物の物性に関わる陰イオンの役割についての総合報告を行う。
 多様な黄鉄鉱型鉱物や化合物の単結晶精密構造解析を行った[1-3]。Debye-Waller因子から、黄鉄鉱型化合物のDebye温度θDを見積もり、原子間距離を指標に比較した。ニクトゲンとカルコゲンを問わず黄鉄鉱型化合物には大きな規則性があることが判明した[1-3]。黄鉄鉱型構造での陰イオン間距離(X-X距離)は、周期律表のニクトゲンとカルコゲンの同じ周期の元素(S:P、Se:As、Te:Sb)で、ほぼ同じ原子間距離になっている。白金族鉱物はマントル岩に多く産出する。RuS2 (laurite)やOsS2 (erlichmanite)がクロムスピネル中に自形で産出することが知られ、主要マントルケイ酸塩鉱物粒子の結晶形成核の役割も果たす。lauriteの融点は1500℃を超える。図1にM-SとS-S距離の組成変化を示している。奇妙なことにM-S距離はほとんど変化せず一定であるのに対し、S-S距離は0.1Åも変化している。RuS2 とOsS2のDebye温度θD値は、それぞれ661Kと688Kであった。Os1-x-yRuxRhySb2固溶体のθD値(580-523K)はRh置換により著しく低下している。M-X距離やX-X距離の変化の規則性から読み取れる構造の安定機構について議論する。
R2-12