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[R2-15] Keatite結晶中における酸素の熱振動について
キーワード:キータイト、負の熱膨張、分子動力学シミュレーション
Keatiteは合成によって得られた二酸化珪素多形のひとつで、1954年にKeatによって合成された(Keat, 1954, Science)。天然では柘榴石輝岩から発見された(Hill et al., 2013, Am. Min.)。SiO4四面体が頂点共有して作るネットワーク構造は、Spodumeneの高温多形のSiO4 /AlO4四面体フレームワークと同様で、固溶体を形成する。Noritake and Naito (2023, J. Non-Cryst. Sol.)に基づく分類法では五員環を主としその他に六・七・八員環が存在するネットワーク構造とされ、結晶構造中に奇数員環が見られる変わった結晶構造である。Keatiteは負の体積熱膨張率を持っており、上述の固溶体は耐熱材料として利用されている。疎な多形を除くと、同様に負の熱膨張率を示すのはQuartz(Kihara, 2001, Phys. Chem. Min.)やCristobalite(Yamahara et al., 2001, J. Non-Cryst. Sol.)の高温相である。そのため神崎(2023, 鉱物科学会年会)はKeatiteが常温ですでに高温相であると指摘している。Huang and Kieffer (2005, Phys. Rev. Lett.)はQuartzとCristobaliteの高温相が負の熱膨張率を持つ原因として、Si–O–Si面の方向の不安定さにあるとしている。本研究では、分子動力学法を用いてKeatite中に於ける酸素の熱振動について解析し、それを基に負の熱膨張率の原因について議論する。分子動力学法のプログラムはMXDORTOを用いた(Sakuma and Kawamura, 2009, Geochim. Cosmochim. Acta)。まず初めに筆者は、二体ポテンシャルモデルであるBKS(van Beest et al., 1991, Phys. Rev. Lett.)、PMMCS(Pedone et al., 2006, J. Phys. Chem. B)、それから三体ポテンシャルも含むFG(Feuston and Garofalini, 1988, J. Chem. Phys,)、およびMGFF(Mahadevan et al., 2019, J. Phys. Chem. B)での計算を行い、それぞれのモデルに於いて格子定数の温度依存性を調べた。ユニットセル内の原子数は10,000を多少超える程度で、運動方程式の積分時間は1.0 fsとした。このうち、Keatiteに於いて負の熱膨張率を示したのはFGモデルだけであった。また、Keatらが報告しているように、温度の上昇に伴ってa, b軸方向には膨張しc軸方向に収縮した。FGモデルでの計算で得られた軌跡を用いて酸素の熱振動について解析を行った。振動方向をそれぞれの架橋について平均Si–O–Si平面に垂直な成分、平均Si–Siヴェクターに平行な成分、そしてその二つと直交する成分に分解した。その結果、Si–Siヴェクターに平行な成分の熱振動はその他の二つの成分に比べて顕著に小さいことが分かった。そのため、過去のQuartzおよびCristobaliteについての研究で指摘されているようにSi–O–Si面の方向の不安定さがKeatiteでも負の熱膨張率の原因になっていると考えられる。Keatiteの低温・高温転移および、Quartz/Cristobaliteとの比較については現在検討中である。