一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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ポスター

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2024年9月14日(土) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R2-P-06] X線異常散乱法によるMn3+/Mn4+の分布の決定:woodruffite中の MnO6 八面体が形成する3×4トンネル構造の詳細

「発表賞エントリー」

*宮﨑 クリストファー1、山根 崚2、杉山 和正2、徳田 誠3、三河内 岳4 (1. 東北大・工院、2. 東北大・金研、3. 熊本大・産研、4. 東京大・総博)

キーワード:ウッドルファイト

【緒言】Woodruffiteは結晶構造中にMnO6八面体が3×4に配列するトンネル構造(骨格構造)を有し,MnはMn3+とMn4+の混合状態にある[1].また,トンネル内隙間空間には,電荷不足を保証する陽イオンZn2+と水分子が存在している[1,2].同様のMnO6八面体が3×3に配列したトンネル構造をもつtodorokiteは,トンネル内隙間空間の陽イオンの挿入脱離を利用する蓄電池正極材として注目されることから,woodruffiteの蓄電池正極材への応用も期待される.本研究では,単結晶X線異常散乱測定により骨格構造中のMn3+の分布について調べ,詳細なwoodruffiteの構造検討を行った.

【実験】Woodruffiteの試料はアメリカ・ニューメキシコ州産の天然試料を用いた.針状試料(0.09 × 0.02 × 0.02 mm)をガラスファイバー(25 μm φ)に取り付け,KEK PF BL6CにおいてMn3+K吸収端(6.548keV)の低エネルギー側6.541および 6.514 keVの入射X線エネルギーを用いて単結晶X線異常散乱測定を行った.平均構造解析は,単結晶X線回折装置Synergy-S(Mo Kα)用いて実験を行った(2Θ max. = 90°, -48 ≤ h ≤ 48, -5 ≤ k ≤ 5, -19 ≤ l ≤ 19).試料のZn/Mn比はEPMA分析(JEOL JXA–8900L)により行った.さらに,Zn2+周囲の水和水は平均構造解析の結果から見積もった.

【結果】woodruffiteの結晶構造およびX線異常散乱測定によって得られたMnコントラストマップをFig. 1(a), (b)に示す.Woodruffiteには4種類のMn八面体席(Mn1-4)が存在する(Fig.1).X線異常散乱法で得られたMnコントラストマップから,骨格構造を形成する八面体席にはMnが分布し,トンネル内隙間空間にはMnは分布していないことが明らかとなった.さらに,実験に用いた入射X線に対するMn4+およびMn3+の異常分散項を考慮すると,比較的強いコントラストが観測されるMn2席には,Mn3+が選択的に配列していることを示していると判断できる.MnO6多面体のMn-O原子間距離はMn1:1.909(1) Å,Mn2:2.020(1) Å,Mn3:1.908(1) Å,Mn4:1.901(1) Åであり,Mn2O6多面体は顕著に歪んでいる.この事実は,Mn3+のMn2への選択的な配列によって生じるJahn-Teller歪みと考えることができ,異常散乱の結果から得られるMn2席へのMn3+の選択的配列と調和的である.Zn-K吸収端で実施したZnの分布に関する研究成果[2]と総合すると,woodruffiteの構造組成式は,Zn2.8Mn3+5.6Mn4+8.4O28·12.8H2Oと書くことができる.発表当日は,ZnおよびMn吸収端において行った異常散乱実験および骨格構造内のMn3+の分布について詳細に議論する.

[1] Post et al., American Mineralogist, 88, 1697–1702(2003)
[2] 宮﨑ら,日本金属学会東北支部(2023)
R2-P-06