12:30 〜 14:00
[R2-P-12] 非晶質炭酸カルシウムの圧力誘起結晶化メカニズム
キーワード:非晶質炭酸カルシウム、方解石、高圧
【緒言】
炭酸カルシウムにはcalcite, vaterite, aragoniteなどの結晶多形の他、非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate: ACC)の存在が知られている。ACCは組成式CaCO3・nH2O (n < 1.5)で表される準安定物質で、高温・高湿度・高圧といった条件に曝すことで炭酸カルシウムの結晶相へと容易に結晶化する。高湿度下での先行研究では、ACCから炭酸カルシウム結晶相への変化は、溶解および再析出を伴う過程であると報告されている (e.g., Xu et al., 2006)。高圧条件の結晶化においても、ACC内に含まれる水が重要な働きをしていると考えられる。Yoshino et al. (2012)は室温下で0.4 – 0.8 GPaの範囲でACCはcalciteとvateriteに結晶化するが、ACCの含水量が低いほど結晶化圧力が高くなることを報告した。一方、近年20 GPaまでのACCの弾性波速度測定(Pennacchioni et al., 2023)などから、ACCが地球深部の地震波異常の原因となる可能性が指摘されているが、これらはACCが1 GPa以下の低圧条件で結晶化するという結果とは相反する。先行研究では使用する高圧装置や圧媒体などが大きく異なり、我々はACCの含水量と圧力媒体の有無や量の違いがACCの結晶化に大きな影響を及ぼしている、と仮説を立てた。
本研究では、(1)部分的ないし完全に脱水したACCに対する加圧実験、(2)異なる圧力媒体を用いた加圧実験を通じて、ACCの圧力誘起結晶化メカニズムを考察した。
【手法】
ACC試料(含水量およそn=1.3)は氷冷された0.1 M塩化カルシウム水溶液と0.1 M炭酸ナトリウム水溶液を体積比1:1で混合し、懸濁液を吸引濾過したのちアセトンで洗浄し、得られた濾過物を真空デシケーターで1日乾燥することで作製した。ACCの含水量は熱重量測定により求めた。ダイアモンドアンビルセルを用い、KEK Photon Factory BL-18Cにおける高圧下その場X線回折実験によりACCの結晶化過程を追跡した。圧力は金の状態方程式ないしルビー蛍光法により決定した。
【結果と考察】
ACCの圧力誘起結晶化における初期含水量の効果
合成したACC(含水量n=1.3)をダイアモンドアンビルセルに入れ、圧力媒体を封入せずに加圧すると、0.32 GPaでcalcite、0.36 GPaでvateriteが出現し、先行研究(Yoshino et al., 2012)と調和的な結果が得られた。しかし、先行研究では生成したvateriteは高圧下で残り続けたのに対し、本研究では準安定相であるvateriteは0.84 GPaでcalciteへと相転移し消失した。次に、合成したACCを200 ℃で20分間および130 ℃で5 分間加熱し脱水させたACC(それぞれn = 0.0およびn=0.5)を同様に加圧したが、本実験での最高圧力である9-11 GPaまでは結晶化しなかった。これらの結果から、ACCが高圧下で結晶化するためには、ACCに一定量以上の水が含まれている必要があることが示された。
ACCの圧力誘起結晶化における圧力媒体の効果
MgOを加えずACC(含水量1.3)のみを加圧すると、上述のように0.32 GPaでcalcite、0.36 GPaでvateriteが出現し、vateriteは0.84 GPaでcalciteへと相転移した。MgOとACCを混合した試料については、ACC:MgO = 10:1(質量比)で混合した場合、0.36 GPaでcalciteおよびvateriteが出現し、高圧条件でもvateriteの強度低下は観察されなかった。一方、ACC:MgO = 1:1、3:1(質量比)で混合したものは、1 GPaを超えてもACCが結晶化しなかった。
以上の結果から、ACCの圧力誘起結晶化はACCから吐き出された水により起きていると考えられる。またMgOを一定量以上混合させると、MgOの粒界に水が入り込みACCから吐き出された水を奪ってしまうために、結晶化が進行せず高い圧力でも非晶質状態を保つことができると考えられる。以上の結果から、ACCの圧力誘起結晶化はACCに水が含まれることが必要で、ACCから放出された水による溶解再析出が結晶化プロセスとして示唆される。MgOを一定量以上出発物質のACCに混合させると、MgOの粒界に水が侵入し、ACCから放出された水を奪うために、結晶化が進行せず非晶質状態が保たれたと考えられる。
炭酸カルシウムにはcalcite, vaterite, aragoniteなどの結晶多形の他、非晶質炭酸カルシウム(Amorphous Calcium Carbonate: ACC)の存在が知られている。ACCは組成式CaCO3・nH2O (n < 1.5)で表される準安定物質で、高温・高湿度・高圧といった条件に曝すことで炭酸カルシウムの結晶相へと容易に結晶化する。高湿度下での先行研究では、ACCから炭酸カルシウム結晶相への変化は、溶解および再析出を伴う過程であると報告されている (e.g., Xu et al., 2006)。高圧条件の結晶化においても、ACC内に含まれる水が重要な働きをしていると考えられる。Yoshino et al. (2012)は室温下で0.4 – 0.8 GPaの範囲でACCはcalciteとvateriteに結晶化するが、ACCの含水量が低いほど結晶化圧力が高くなることを報告した。一方、近年20 GPaまでのACCの弾性波速度測定(Pennacchioni et al., 2023)などから、ACCが地球深部の地震波異常の原因となる可能性が指摘されているが、これらはACCが1 GPa以下の低圧条件で結晶化するという結果とは相反する。先行研究では使用する高圧装置や圧媒体などが大きく異なり、我々はACCの含水量と圧力媒体の有無や量の違いがACCの結晶化に大きな影響を及ぼしている、と仮説を立てた。
本研究では、(1)部分的ないし完全に脱水したACCに対する加圧実験、(2)異なる圧力媒体を用いた加圧実験を通じて、ACCの圧力誘起結晶化メカニズムを考察した。
【手法】
ACC試料(含水量およそn=1.3)は氷冷された0.1 M塩化カルシウム水溶液と0.1 M炭酸ナトリウム水溶液を体積比1:1で混合し、懸濁液を吸引濾過したのちアセトンで洗浄し、得られた濾過物を真空デシケーターで1日乾燥することで作製した。ACCの含水量は熱重量測定により求めた。ダイアモンドアンビルセルを用い、KEK Photon Factory BL-18Cにおける高圧下その場X線回折実験によりACCの結晶化過程を追跡した。圧力は金の状態方程式ないしルビー蛍光法により決定した。
【結果と考察】
ACCの圧力誘起結晶化における初期含水量の効果
合成したACC(含水量n=1.3)をダイアモンドアンビルセルに入れ、圧力媒体を封入せずに加圧すると、0.32 GPaでcalcite、0.36 GPaでvateriteが出現し、先行研究(Yoshino et al., 2012)と調和的な結果が得られた。しかし、先行研究では生成したvateriteは高圧下で残り続けたのに対し、本研究では準安定相であるvateriteは0.84 GPaでcalciteへと相転移し消失した。次に、合成したACCを200 ℃で20分間および130 ℃で5 分間加熱し脱水させたACC(それぞれn = 0.0およびn=0.5)を同様に加圧したが、本実験での最高圧力である9-11 GPaまでは結晶化しなかった。これらの結果から、ACCが高圧下で結晶化するためには、ACCに一定量以上の水が含まれている必要があることが示された。
ACCの圧力誘起結晶化における圧力媒体の効果
MgOを加えずACC(含水量1.3)のみを加圧すると、上述のように0.32 GPaでcalcite、0.36 GPaでvateriteが出現し、vateriteは0.84 GPaでcalciteへと相転移した。MgOとACCを混合した試料については、ACC:MgO = 10:1(質量比)で混合した場合、0.36 GPaでcalciteおよびvateriteが出現し、高圧条件でもvateriteの強度低下は観察されなかった。一方、ACC:MgO = 1:1、3:1(質量比)で混合したものは、1 GPaを超えてもACCが結晶化しなかった。
以上の結果から、ACCの圧力誘起結晶化はACCから吐き出された水により起きていると考えられる。またMgOを一定量以上混合させると、MgOの粒界に水が入り込みACCから吐き出された水を奪ってしまうために、結晶化が進行せず高い圧力でも非晶質状態を保つことができると考えられる。以上の結果から、ACCの圧力誘起結晶化はACCに水が含まれることが必要で、ACCから放出された水による溶解再析出が結晶化プロセスとして示唆される。MgOを一定量以上出発物質のACCに混合させると、MgOの粒界に水が侵入し、ACCから放出された水を奪うために、結晶化が進行せず非晶質状態が保たれたと考えられる。