一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 10:00 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:境 毅(愛媛大学)、新名 良介(明治大学)、石井 貴之(岡山大学)、川添 貴章(広島大学)

10:45 〜 11:00

[R3-04] Wadsleyite及びringwoodite中の含水量の温度依存性

*井上 徹1,2、濵田 雄士2、嘉屋 華恵2、江木 祐介1、前田 大地1、山口 和貴1、山田 晃之亮1、川添 貴章1,2 (1. 広島大・院先進理工、2. 広島大・理)

キーワード:ウォズレアイト、リングウッダイト、最大含水量、マントル遷移層

1.はじめに
 マントル遷移層(地球深部約410 km~660 kmに相当)の主要構成鉱物はolivineの高圧相であるwadsleyite (Wd) 及び ringwoodite (Rw) であることは多くの研究者が認めるところである。これらの相は名目上無水鉱物(Nominally anhydrous mineral (NAM))であるが,数wt%レベルの水が結晶構造中に含まれうることが明らかにされており(例えばInoue et al., 1995; Kohlstedt et al., 1996),マントル遷移層は水の貯蔵庫として働くことが示唆されてきた。そのような中,Pearson et al. (2014) において~1.4 wt%含水化したRwがダイヤモンド包有物中に発見され,マントル遷移層が少なくとも局所的には含水化していることが明らかとなった。鉱物の含水量はその物性に多大な影響を及ぼすため,Wd及びRw中の含水量の温度依存性を明らかにすることは地球深部ダイナミクスを議論するうえで重要である。この温度依存性に関しては,先行研究結果が既に出されてはいるが (Ohtani et al., 2001; Litasov and Ohtani, 2003) ,その結果には不一致も見られ,明確に決定されたとは言い難い。したがって本研究では,WdとRwの含水量の温度依存性を再検討することを目的に,実験的研究を行った。
 2.実験方法
 実験試料はMg2SiO4 及び(Mg0.9, Fe0.1)2SiO4 にH2Oを5 wt%加えた2種類の試料を準備した。出発試料としては,上記の組成になるMg(OH)2, MgO, SiO2, Fe2SiO4の粉末混合試料を準備した。H2O成分の流出を防ぐため,試料はAuPdカプセルに封入した。
 高圧合成実験は広島大学設置の川井型(MA8型)高圧発生装置MAPLE600を使用して行った。実験条件は,Wdは15 GPa, 1200-1600℃, Rwは20 GPa, 1200-1500℃とした。保持時間は1時間で統一した。
 回収した試料は鏡面研磨を行った後,SEMで組織観察を行い,EPMAで化学組成を測定した。相同定は微小部XRDを用いて行った。含水量はEPMA total欠損値から推定した。尚,今回の測定では粒径がプローブ径より十分大きく,かつ平滑な面を測定したため,total欠損はH2Oの寄与以外は考えにくい。したがってEPMA定量分析の際のZAF補正(マトリックス補正)には,水素の存在も考慮した補正を行った。更にWdについては,clinoenstatite (CEn) が共存したため,このCEnはほぼ無水(含水量 0 wt%)と仮定し規格化して推定を行った。加えて,比較検討のため,Inoue et al. (1995)で示唆されている含水置換 ([Mg2++Fe2+] ↔2H+)から推定される含水量も計算した。
3.結果及び考察
 図1に15 GPaでのMg2SiO4 Wdの最大含水量の温度依存性を示す。本研究で1300-1600℃で得られたWdはすべて含水メルトと共存していたため,各温度での最大含水量を示していると考えられる。尚,This study (CEn補正) はCEnを無水と仮定して規格化した値,This study (置換様式) はInoue et al. (1995)で示唆された置換を仮定して推定した値を示す。無水条件下での融点は約2500℃ (Ohtani&Kumazawa, 1981)であることから,温度低下とともに最大含水量は1300℃まで著しく増加することが解る。この傾向はDemouchy et al. (2005) の1300-1400℃でのデータとも一致する。一方,Demouchy et al. (2005) のデータ引用になるが1200℃以下では含水量はほとんど変わらない結果となっている。本研究結果から,例えば15 GPaでのマントルの温度を約1500℃と仮定すると,Mg2SiO4 Wd中には最大1~1.5 wt%程度の水が含まれ得ると予想される。
 一方,20 GPa, 1200-1500℃で含水メルトと共存したRwが合成され,各温度での最大含水量が決定できた。RwでもWd同様,温度低下とともに最大含水量が著しく増加する傾向を示した。本研究結果から,Pearson et al. (2014)のダイヤモンド包有物中のRwは含水量が~1.4 wt%であることから,1400-1500℃の条件下で生成されたと推定される。
R3-04