一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 10:00 〜 12:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:境 毅(愛媛大学)、新名 良介(明治大学)、石井 貴之(岡山大学)、川添 貴章(広島大学)

11:15 〜 11:30

[R3-06] 中性子回折による陽イオンサイト占有率解析の利点と高圧鉱物への応用例

*奥地 拓生1 (1. 京都大・複合研)

キーワード:中性子回折

中性子回折は結晶中の水素の構造パラメーターの決定、磁性を有する結晶の磁気的構造の解析、および非晶質物質の局所構造の解析に対して広く用いられてきた手法である。これらの要素を含まない結晶構造解析に対してはX線回折を利用する場合が一般的である。一方で、そのような場合においても中性子回折の利用が科学的意義のある結果をもたらす場合がある。これは中性子が (i) 酸素などの水素以外の軽元素の構造パラメーター決定にも非常に有効であり、(ii) 原子番号が近い元素を見分けることが容易であり、さらに (iii) d値の小さな反射の計測が行いやすいプローブであることによる。本発表では、中性子のこれらの特徴を改めて考慮した上での鉱物学研究への応用の可能性を、高圧鉱物へのいくつかの応用例を踏まえて提案する。

例えば上記の利点のうち (iii) を充分に活用することができれば、高い空間分解能の構造解析を実現できるとともに、用いる反射の総数の増加によってサイト占有率の精度を大きく向上させることができる。単結晶回折法では最小のd値が0.30~0.50 Å に達する解析も可能であり、ここからサイト占有率を三桁の有効数字で求めることができる[1-3]。また、粉末回折法においても最小の計測可能なd値が小さくなって反射の総数が増えることで、同じような効果が得られる場合は多い[4]。特に陽イオンのサイト占有率は複数種類のイオンが相関をとりつつ変化するパラメーターである場合が多く、各イオンの占有率の動向を注意深く比較検討することで置換の様式が具体的にわかってくる場合は多い。

将来に予定されている大型中性子散乱施設の新たな稼働と、その場での中性子回折装置の新たな設置の計画を踏まえて[5]、鉱物学の分野における中性子回折の広い応用の可能性を、今後も提案していきたい。

文献
[1] Purevjav, Okuchi et al., Acta Cryst., B74, 115 (2018)
[2] Purevjav, Okuchi et al. IUCrJ, 7. 370 (2020)
[3] Purevjav et al. Am. Mineral., 109, 1036 (2024)
[4] Tomioka, Okuchi et al., Phys. Chem. Mierals, 43, 267 (2016)
[5] https://www.rri.kyoto-u.ac.jp/labnrr/