一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

ポスター

R3:高圧科学・地球深部

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R3-P-07] 高温高圧条件下における硫化鉄と水素の反応の再検討

「発表賞エントリー」

*高野 将大1、鍵 裕之1、森 悠一郎1、青木 勝敏1、柿澤 翔2、辻野 典秀2、肥後 祐司2、佐野 亜沙美3 (1. 東大·院理、2. JASRI、3. 日本原子力研究開発機構 J-PARC)

キーワード:中性子回折、X線回折、硫化鉄、水素化

硫化鉄(II)(FeS)は隕石中に普遍的に含まれ、地球型惑星の金属核に含まれる物質の候補として注目されている。水素共存下における高温高圧条件で硫化鉄の単位胞体積の増加と融点降下から、FeSの高温高圧相であるFeS IV 相(FeS IV)とV相(FeS V)は水素と反応し、侵入型固溶体FeSHxを形成する可能性が示された(Shibazaki et al., 2011)。高温高圧下での中性子回折からFeS重水素化物の結晶構造も報告されている(Abeykoon et al., 2023)が、D原子の原子変位パラメータが、高温高圧条件下における鉄水素化物の先行研究と比較して約10倍の値であり、解析結果には疑問が残る。これらの研究では、試薬会社から入手した硫化鉄試料が出発物質として用いられており、X線回折測定で得られた単位胞体積から化学量論的ではなく鉄欠損があることがわかっている。最近、我々が合成した化学量論的な硫化鉄を出発試料として同様の実験を行ったが、先行研究で報告されたような水素化による大きな体積膨張は起こらず、出発物質の状態によって水素との反応性が大きく異なる可能性が示された。そこで、先行研究で用いられた硫化鉄試薬と、鉄と硫黄の混合物から合成した硫化鉄の水素との反応性の違いを明らかにすることを目的に、高温高圧下における中性子回折実験と放射光X線回折実験を行った。中性子回折実験はJ-PARC MLF BL11(PLANET)で実施した。圧力発生には6軸マルチアンビルプレス「圧姫」を用い、出発試料として、Abeykoon et al. (2023)と同じChemPur製の硫化鉄試薬を用いた。重水素源にはND3BD3を用い、放出される重水素の物質量がFeSと等しくなるように調整した。まず試料を5 GPaまで加圧した後、1000 Kまで昇温しND3BD3を分解させ、系内に水素を放出させたところ、試料が水素と反応して単位胞体積が膨張する様子が観察された。体積膨張の終了後、1000 Kと700 Kにおいて、1点あたり8時間かけて中性子回折パターンを取得した。Abeykoon et al. (2023)で提案された結晶構造モデルを用いてRietveld解析を行い、硫化鉄中の重水素量を決定した。その結果、Abeykoon et al. (2023)と同様にきわめて大きな原子変位パラメータが得られた。また、水素化していない硫化鉄の結晶構造を初期モデルとして構造精密化を行ったが、Abeykoon et al. (2023)で提案された水素位置には有意な散乱長異常は観察されず、硫化鉄水素化物の結晶構造モデルを再検討する必要性が明らかになった。放射光X線回折実験はSPring-8 BL04B1で行った。高圧発生にはマルチアンビルプレス 「SPEED Mk. II」にDIA型ガイドブロックを組み込み、2段目アンビルに超硬アンビル(TEL = 4 mm)を使用するMA6-8方式を用いた。実験は2 run行い、試料カプセル内には、Shibazaki et al. (2011)またはAbeykoon et al. (2023)で使用された硫化鉄試薬、本研究で合成した硫化鉄、水素源のNH3BH3を、それぞれBN薄膜で仕切って順番に投入した。まず5 GPaまで加圧した後、800 Kまで昇温して水素を放出させた。それぞれの硫化鉄試料のX線回折パターンを交互に取得し、水素との反応性の違いを観察した。Abeykoon et al. (2023)で用いられた硫化鉄は1000 Kで, Shibazaki et al. (2011) で用いられた硫化鉄は1200 Kでそれぞれ水素と反応し、単位胞体積が膨張する様子が観察された。一方、我々が合成した化学量論的な硫化鉄試料はいずれの温度点においても単位胞体積の膨張は観察されなかった。これらの結果から、先行研究で用いられた鉄欠損をもつ硫化鉄試料は水素と反応するが、化学量論的な硫化鉄は水素と反応しないことが明らかになった。