12:30 〜 14:00
[R8-P-04] 東ネパール・ヒマラヤの泥質変成岩中に産するモナズ石の記載とモナズ石のTh-Pb年代測定法の開発
「発表賞エントリー」
キーワード:モナズ石、Th-Pb年代測定法、高ヒマラヤ変成岩
ヒマラヤ造山帯には、かつて衝突帯中~下部地殻を構成していた高度変成岩類Higher Himalayan Crystallines (HHC)が広範囲にわたって露出している。HHCが地表に露出するに至るテクトニクスについては、現在も議論が続いているが、その制約には岩石の鉱物共生関係の変化を吟味した上で、それに対応する年代軸を与えることで得られる温度-圧力-時間履歴(P-T-t履歴)の構築を行うことが重要である。しかし、HHCの変成度は高度変成岩類の中では低い部類のため、年代軸の決定に有利なジルコンの変成リムの発達は十分でなく粒径も<100 μm程度と小さく、従来手法の分析径(数十μm)では変成時に成長した小領域の年代を測定することが困難で、報告例も少ない[e.g. 1]。一方、HHC中のモナズ石は粗粒(>100 μm)なものが多く、年代情報を抽出する上で有益なツールである[e.g. 2]。
先行研究では、中央ネパールのHHCに産する泥質片麻岩から分離されたザクロ石に包有されるモナズ石のTh-Pb年代が決定されており、古生代初期から新生代までの年代値が報告されている[3]。さらには、[4]は東ネパールのザクロ石のin-situ Lu-Hf年代測定の結果、ザクロ石のコアから古生代の年代、リムから新生代の年代を報告した。このことは、ヒマラヤ地域に露出する変成岩類が、古生代の変成岩類がさらに新生代に変成されるという、複変成作用を被った可能性を示唆する。従って、P-T履歴を構築するのに用いるザクロ石のような重要な変成鉱物の成長年代を意識しながら変成岩類のP-T-t履歴を復元することが、衝突帯テクトニクスを議論する上では必要不可欠である。
そこで本研究では、東ネパールのHHCに産する泥質片麻岩中のモナズ石の産状記載を行うとともに、Th-Pb同位体比分析法の立ち上げに向けて、多重検出方式のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いた実験を行った。
本研究で用いた泥質片麻岩は、[4]と同地域の東ネパールのHHCから採取したザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩である。本試料の主要鉱物組み合わせはザクロ石、藍晶石、珪線石、黒雲母、斜長石、カリ長石、石英である。モナズ石はザクロ石や黒雲母、珪線石、石英に包有されており、一般的な傾向として、ザクロ石に包有されるモナズ石の粒径は<100 μm以下であるのに対して、マトリクスに産するモナズ石の粒径は>100 μmである。モナズ石はBSE像で認識できるコアとリムをもち、いくつかの粒子ではコア中にBSE像が暗い領域が観察される。
本研究で立ち上げを進めているモナズ石の232Th-208Pb年代測定法はU-Pb年代測定法に比して利点を有する。それは、モナズ石は3-9 wt%のThO2を含有するため、たとえモナズ石が閉鎖系を達成してから数百万年しか経過していなくても、測定可能な十分量の208Pbが生成され、正確な年代測定が可能であるという点である(e.g. [3])。一方、U-Pb年代測定法では数百万年では206Pb、207Pbの生成量が少ないため従来手法では誤差が大きくなってしまう。このことは、若い造山帯であるヒマラヤにおいてもモナズ石の232Th-208Pb年代測定法が有用であることを意味する。本研究では、プライマリースタンダードとしてDelaware 44069[5]を使用し、Namaqualandのモナズ石[6]の232Th-208Pb年代測定を行った。その結果、232Th-208Pb年代は904±24 Ma (2s, n = 10, MSDW = 39)。また、206Pb/238U年代, 207Pb/235U年代は、それぞれ、922±13 Ma(2s, n = 10, MSDW = 12), 1018±37 Ma(2s, n = 10, MSWD = 3.7)であった。これらを参照値の1033Maと比較すると、それぞれ若い方向へ系統誤差が生じている。系統誤差が生じた原因のひとつとして、LA時に掘削量が大きいために元素分別が生じてしまった可能性が考えられる。今後、確度を向上させることが実用化に向けて必要不可欠である。
発表では、先行研究や実際の試料に産するモナズ石の産状や組織、ICP-MSを用いて得られたモナズ石の232Th-208Pb年代測定法の実験結果を交え、モナズ石の232Th-208Pb年代測定法の本研究試料への適用に向けた議論を行う。
引用文献 [1] Imayama+ (2012) Lithos. [2] Rubatto+ (2013) CMP. [3] Martin+ (2007) Chem Geol. [4] Larson+ (2024) Geosci Front. [5] Aleonikoff+ (2006) Geol Soc Am Bull. [6] Knoper+ (2001) . JES.
先行研究では、中央ネパールのHHCに産する泥質片麻岩から分離されたザクロ石に包有されるモナズ石のTh-Pb年代が決定されており、古生代初期から新生代までの年代値が報告されている[3]。さらには、[4]は東ネパールのザクロ石のin-situ Lu-Hf年代測定の結果、ザクロ石のコアから古生代の年代、リムから新生代の年代を報告した。このことは、ヒマラヤ地域に露出する変成岩類が、古生代の変成岩類がさらに新生代に変成されるという、複変成作用を被った可能性を示唆する。従って、P-T履歴を構築するのに用いるザクロ石のような重要な変成鉱物の成長年代を意識しながら変成岩類のP-T-t履歴を復元することが、衝突帯テクトニクスを議論する上では必要不可欠である。
そこで本研究では、東ネパールのHHCに産する泥質片麻岩中のモナズ石の産状記載を行うとともに、Th-Pb同位体比分析法の立ち上げに向けて、多重検出方式のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)を用いた実験を行った。
本研究で用いた泥質片麻岩は、[4]と同地域の東ネパールのHHCから採取したザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩である。本試料の主要鉱物組み合わせはザクロ石、藍晶石、珪線石、黒雲母、斜長石、カリ長石、石英である。モナズ石はザクロ石や黒雲母、珪線石、石英に包有されており、一般的な傾向として、ザクロ石に包有されるモナズ石の粒径は<100 μm以下であるのに対して、マトリクスに産するモナズ石の粒径は>100 μmである。モナズ石はBSE像で認識できるコアとリムをもち、いくつかの粒子ではコア中にBSE像が暗い領域が観察される。
本研究で立ち上げを進めているモナズ石の232Th-208Pb年代測定法はU-Pb年代測定法に比して利点を有する。それは、モナズ石は3-9 wt%のThO2を含有するため、たとえモナズ石が閉鎖系を達成してから数百万年しか経過していなくても、測定可能な十分量の208Pbが生成され、正確な年代測定が可能であるという点である(e.g. [3])。一方、U-Pb年代測定法では数百万年では206Pb、207Pbの生成量が少ないため従来手法では誤差が大きくなってしまう。このことは、若い造山帯であるヒマラヤにおいてもモナズ石の232Th-208Pb年代測定法が有用であることを意味する。本研究では、プライマリースタンダードとしてDelaware 44069[5]を使用し、Namaqualandのモナズ石[6]の232Th-208Pb年代測定を行った。その結果、232Th-208Pb年代は904±24 Ma (2s, n = 10, MSDW = 39)。また、206Pb/238U年代, 207Pb/235U年代は、それぞれ、922±13 Ma(2s, n = 10, MSDW = 12), 1018±37 Ma(2s, n = 10, MSWD = 3.7)であった。これらを参照値の1033Maと比較すると、それぞれ若い方向へ系統誤差が生じている。系統誤差が生じた原因のひとつとして、LA時に掘削量が大きいために元素分別が生じてしまった可能性が考えられる。今後、確度を向上させることが実用化に向けて必要不可欠である。
発表では、先行研究や実際の試料に産するモナズ石の産状や組織、ICP-MSを用いて得られたモナズ石の232Th-208Pb年代測定法の実験結果を交え、モナズ石の232Th-208Pb年代測定法の本研究試料への適用に向けた議論を行う。
引用文献 [1] Imayama+ (2012) Lithos. [2] Rubatto+ (2013) CMP. [3] Martin+ (2007) Chem Geol. [4] Larson+ (2024) Geosci Front. [5] Aleonikoff+ (2006) Geol Soc Am Bull. [6] Knoper+ (2001) . JES.