一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R8-P-06] 紀伊半島中央部,三波川帯–秩父帯境界域の砕屑性ジルコンU–Pb年代測定と炭質物ラマン分光分析

*森 宏1、碓井 虎次郎1,2、常盤 哲也1、小澤 和浩3 (1. 信州大学、2. 日本工営株式会社、3. 精密林業計測株式会社)

キーワード:三波川帯、秩父帯、砕屑性ジルコンU–Pb年代測定、ラマン分光分析、炭質物

三波川帯の白亜紀高圧変成岩類と秩父帯のジュラ紀付加体構成岩類は,関東山地から四国地方にかけて並走配列しており,アジア縁辺における中生代の沈み込み帯発達過程の究明に欠かせない存在である.通常,両地質体の間には,御荷鉾緑色岩類が分布しており,三波川帯-秩父帯境界を規定する鍵相となっている.ただし,紀伊半島中央部においては,御荷鉾緑色岩類が欠落する.また,この欠落部の三波川帯-秩父帯境界域における主要岩相は,両地質体ともに低変成度の泥質岩であり,岩相観察に基づく帰属識別が困難となっている(青矢,2010).この問題は,正確な地質構造境界の追跡に直結するとともに,両地質体の構造関係(上下関係)や紀伊半島西部〜四国地方と紀伊半島東部〜関東山地の広域的な側方連続性を明らかにする上でも重要である.
 そこで本研究では,紀伊半島中央部・三重県滝原地域に露出し,三波川帯-秩父帯の地質構造境界とされている滝原スラスト(TK-T;Kimura, 1954)の周辺域を対象として,1) TK-Tの両側から採取した砂質岩中の砕屑性ジルコンU–Pb年代測定より,TK-Tが三波川帯-秩父帯境界であることを検証するとともに,2) TK-Tを横断して連続的に採取した砕屑岩(主に泥質岩)試料に含まれる炭質物のラマン分光分析より,各種スペクトル特性を用いた帰属識別が可能か否かを検討した.
 U–Pb年代測定では,TK-Tの北側と南側から採取した砂質岩1試料ずつを使用した.TK-Tの北側から得られた砕屑性ジルコンU–Pb年代(以下,ジルコン年代)は,白亜紀〜ペルム紀の粒子が46.5%で,先カンブリア紀の粒子が52.8%を占める.また,最も若いジルコン年代が116.8±3.8 (2σ) Maであり,最も若いクラスター年代が118.0±2.6 (2σ) Maを示す.一方,TK-Tの南側のジルコン年代は,ジュラ紀〜ペルム紀の粒子が54.4%で,先カンブリア紀の粒子が45.6%を占める.また,最も若いジルコン年代が156.0±5.1 (2σ) Maであり,最も若いクラスター年代が157.5±4.4 (2σ) Maを示す.これら年代構成と最若(クラスター)年代の特徴を,他地域の三波川帯および秩父帯と比較すると,TK-Tの北側は三波川帯,南側は秩父帯と類似しており,TK-Tが三波川帯-秩父帯境界であることを支持する.
 炭質物のラマン分光分析では,TK–Tを横断して採取した砕屑岩計9試料(TK-Tの北側6試料,南側3試料)を使用した.分析により得られたラマンスペクトルは,ピーク分離を行った上で,400 ºC未満の低変成度域の変成温度見積もりに用いられているD1D2バンド半値幅を用いた温度換算値(TD1TD2;Kaneki & Kouketsu, 2022),および,他地域において三波川帯-秩父帯間で差異が認められているD4/D1バンド強度比(D4/D1int;Hara et al., 2022)を指標として,TK-Tを横断した空間変化を検討した.TK-Tの北側(三波川帯)では,TD1 = ~270–290 ºC,TD2 = ~250–310 ºC D4/D1int = ~0.23–0.29を示す.一方,TK-Tの南側(秩父帯)では,TD1 = ~260–270 ºC,TD2 = ~270–310 ºC,D4/D1int = ~0.33–0.37を示し,D4/D1intに関して,TK-Tを境に明瞭な差異が認識された.このことは,D4/D1intが,低変成度の三波川帯-秩父帯境界域における有用な帰属識別の指標になり得ることを示す.
【引用文献】青矢, 2010, 地質調査報告,61,195–202;Hara et al., 2021, 11, 854;Kaneki & Kouketsu, 2022, Island Arc, 31, e12467;Kimura, 1954, Journal of Earth Sciences, Nagoya University, 7, 243–272.