一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R8-P-07] 北海道神居古潭変成帯・幌加内地域の角閃岩におけるwakefieldite-(Y)の発見とその意義

*加藤 太朗1、苗村 康輔1、竹下 徹2 (1. 岩手大学、2. パシフィックコンサルタンツ株式会社)

キーワード:神居古潭変成帯、イットリウムバナジン酸塩、ウェイクフィールダイト-(Y)、温度圧力時間経路

高圧変成岩研究の主要テーマの一つは、温度圧力(時間)履歴の導出である。これまで多くの変成帯において重複変成作用が報告されてきた。沈み込み帯を代表する岩石である青色片岩では、同一の岩石が沈み込み初期の低P/T勾配(>15℃/km)で安定な角閃岩の鉱物組み合わせと高P/T勾配(≃10℃/km)で安定な青色片岩の鉱物組み合わせを記録することが世界中から報告されてきた(Willner et al., 2005; Takeshita et al., 2023)。これは海嶺の沈み込みなどにより高温状態となった沈み込み帯がその後数千万年かけて冷却したためと解釈されてきた。それでは、沈み込み帯深部で形成された角閃岩はプレートが冷却するまでの間一体どこに留まっていたのだろうか?第一の可能性は、プレート運動から切り離された角閃岩がマントルウェッジに底付けし、数千万年のちに冷たくなったプレートと共に浮上したとする説である(Angiboust et al., 2016)。別の可能性は、初期の沈み込み運動で形成された角閃岩が、いったん地殻浅部に浮上し、数千万年のちに再び沈み込んだとする説である。多くの研究者は前者を支持しており、岩石が等圧冷却(反時計回り)経路を記録したことを示唆している。この定説に対して、本研究はWakefiedlite-(Y)という鉱物の産状に基づいて、後者の可能性もありえるということを主張したい。神居古潭変成帯は日本を代表する青色片岩の産地であり、そこには沈み込みプレートに由来する高圧変成岩が見られる。とりわけ神居古潭変成岩の幌加内地域では累進的なカルシウムアルミノケイ酸塩鉱物の変化が見られる:ローソン石が卓越する構造的下位のⅠ帯から、上位に向かって緑簾石が出現し(Ⅱ帯)、幌加内オフィオライトとの境界近傍でローソン石が消滅する(Ⅲ帯)。(Shibakusa, 1989)。III帯相当の幌加内峠には青色変成岩よりも形成年代が古い角閃岩が見られ、異地性岩体(テクトニックブロック)と解釈されてきた(Imaizumi and Ueda, 1981)。この異地性岩体では沈み込み初期の角閃岩鉱物組み合わせが部分的に青色片岩の鉱物組み合わせに置換されている。本研究で研究した角閃岩は竹下の分類によれば“Epidote amphibolite”に分類される。岩石は弱い片理をもち、片理を構成する鉱物組み合わせはホルンブレンド(一部アクチノ閃石)、緑簾石、斜長石、ルチル、白雲母、±緑泥石である。これらの鉱物はリムやプルアパートで青色片岩の鉱物組み合わせへと変化し、その鉱物組み合わせは藍閃石、パンペリ石、緑簾石、斜長石、チタン石、白雲母、緑泥石である。片理を構成する白雲母はSi=3.3-3.5 apfu(O=11)なのに対して、緑簾石や角閃石のプルアパートを埋める白雲母はSi=3.5-3.8 apfuとフェンジャイト成分に富み低温高圧下で形成されたことを示唆する。今回発見した4粒子のyttrium vanadateは、緑簾石やホルンブレンドのプルアパートや分解組織中に見られた。YとVの比は0.7:1.0であり、Yにクロム、希土類、カルシウムなどが置換したwakefieldite-(Y)と考えられる。プルアパートはフェンジャイト成分に富む白雲母で充填されている。このことは、wakefiedlite-(Y)が青色片岩の変成作用時かそれ以前の変質作用により形成されたことを示唆する。 Wakefiedlite-(Y)はこれまでアルプスの高圧変成岩から報告されてきたが、それらは上昇過程に伴う超高酸化状態で形成されたとされてきた(Tumiati et al., 2015)。もし同様に浅所での高酸化条件で形成されたと見なせば、神居古潭変成帯に見られる角閃岩のテクトニックブロックは、深部に留まって等圧冷却したのではなく、角閃岩相における変成作用を被ったあと、1度浅所に浮上した可能性がある。Wakefiedliteは数%のウランを含むことがあるため、今後、この鉱物の産状を記載し、年代測定をすることで角閃岩が1度地殻深度に浮上し変質作用を受けた年代を決定することができる可能性がある。