一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 15:30 〜 18:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:片山 郁夫(広島大学)、道林 克禎(名古屋大学)

15:30 〜 15:50

[S3-01] 放射光X線を用いた高温高圧下での高速時分割その場応力―歪測定

「招待講演」

*辻野 典秀1 (1. 高輝度光科学研究センター)

キーワード:高圧力、高速時分割、その場測定、レオロジー

1.はじめに
地球マントルダイナミクスを理解するためには、高圧下でのマントル鉱物のレオロジー特性の知識が必要不可欠である。レオロジー特性の中でも粘性率はマントル対流を理解するうえで最も重要な基礎データの一つである。2003年以降、放射光を利用した変形機構付き大容量プレスによる高圧下での応力―歪測定技術の開発により、4万気圧を超える条件でのマントル鉱物の粘性率が報告されるようになった(Wang et al., 2003)。最近では、D111型ガイドブロックの開発(Hunt et al., 2016)、回転ドリッカマー装置の開発などもあり、下部マントル最上部条件での粘性率測定が可能となった。その結果、下部マントル最主要鉱物であるブリッジマナイトの粘性率(Tsujino et al., 2022)やポストスピネル相の歪量に伴う粘性率変化の可能性(Girard et al., 2016)が報告され、地球物理学的観測から報告されている下部マントルの高粘性率はブリッジマナイトにより説明できることが明らかにされるとともに、ポストスピネル相において変形とともに粘性率を支配する鉱物がブリッジマナイトからフェロペリクレースへと変わる可能性が報告された。一方で、これまでの研究では、その場応力―歪測定、特に応力測定に1~5分程度の時間を要するため、定常状態に達したと判断するために長時間を要するだけでなく、地震現象を含む破壊のような高速度で進行する動的過程を理解することは現状では困難を極める。そこで、本研究では、SPring-8のアンジュレーター光源ビームラインであるBL05XUで得られる高輝度高エネルギーピンクビームを利用して、大容量プレスを用いた高圧下でのサブ秒までの高速時分割その場応力―歪測定を試みた。
2.実験手法
高速でのスリットサイズの変更を可能とするため、二枚の円盤からなる回転スリットを新に開発することにより、最大で144Hzでのビームサイズの切り替えを可能とした。応力を見積もるための二次元XRD測定にはフラットパネル検出器を、歪量を見積もるためのX線ラジオグラフィー像の取得には、LuAGシンチレーターとCMOSカメラを用いた。これらを組み合わせることにより最大で6Hzでの二次元XRDとX線ラジオグラフィー像の測定を可能とした。また、大容量プレスとして、最大で1mm/sの移動速度を持つプレスステージに搭載された200tonD-DIAプレスを使用し、高圧下でD-ramを動かすことにより試料の変形を行った。また試料として、フォルステライト多結晶焼結体を使用し、上下にPt箔を設置することでラジオグラフィー像から試料の歪量の測定を可能とした。
3.結果
約3GPaに加圧後、加圧によって蓄えられたFo多結晶体の応力が600℃から1000℃への昇温とともに緩和され、同時に試料の歪量の増大する様子が観察された。この結果は、Nishihara et al. (2009)により報告されているカンラン石の応力緩和の結果と整合的であることが明らかとなった。このように、大容量プレスを用いた高圧条件下においても3Hz以上の測定回数で応力―歪測定が可能となることが明らかとなった。本講演では、実験結果に加え測定系の詳細と今後のビームライン構想等についても詳しく紹介したい。