一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 15:30 〜 18:00 ES025 (東山キャンパス)

座長:片山 郁夫(広島大学)、道林 克禎(名古屋大学)

17:40 〜 17:55

[S3-09] 片理の発達した蛇紋岩とかんらん岩の地震波速度と電気比抵抗の多成分測定

「発表賞エントリー」

*伊藤 禎宏1、片山 郁夫1、道林 克禎2、松山 和樹2 (1. 広島大学、2. 名古屋大学)

キーワード:超塩基性岩、地震波速度、電気比抵抗、異方性

沈み込み帯で起こるさまざまな現象には水が関わっている.蛇紋岩の形成もそのうちの一つである.沈み込むプレートがマントルウェッジに水を放出する際,プレートの表面やマントルウェッジと水が反応し蛇紋岩が形成される.特にプレートの表面に形成される蛇紋岩は強く変形を受け,片理面が発達している.地球深部における水は地震波速度や電気比抵抗の地球物理観測によって近年明らかになっている.これらの結果の解釈には等方的な蛇紋岩やかんらん岩の物性値が使われている.しかし,実際の沈み込み帯の蛇紋岩やかんらん岩は,強く変形を受け片理面や線構造を持ち,岩石中に見られる割れ目も異方的に分布する.このような片理の発達した蛇紋岩やかんらん岩の実験室下での物性測定はいまだ少ない.そのため本研究では,片理の発達したな蛇紋岩やかんらん岩の地震波速度や電気比抵抗の多成分測定を行い,その結果と地球物理観測から,沈み込み帯での流体の移動経路を議論することを目的とする.
 本研究で用いた岩石試料は,長崎県野母半島で採取された蛇紋岩と愛媛県東赤石山で採取されたかんらん岩である.これらの岩石は偏光顕微鏡下でも強い鉱物の定向配列を持っている.また,測定する方向を決めるために,線構造に平行な方向をX軸,片理面に垂直な方向をZ軸とした.これらの岩石について,実験室での地震波速度と電気比抵抗の同時測定を行った.地震波速度と電気比抵抗の測定実験には,容器内透水変形試験機を用いた.実験条件は封圧を5 MPaから200 MPaまで段階的に加圧・制御し,圧力効果を調べた.流体には0.5 mol/LのNaCl溶液を用い,流体圧は1 MPaに制御して室温下で実験を行った.また,EBSDを用いた鉱物の結晶方位測定を行い,結晶選択配向による異方性を評価した.
 蛇紋岩,かんらん岩のP波速度はX軸,Y軸方向が,片理面にZ軸方向よりも速い傾向を示した.蛇紋岩は,X軸,Y軸方向でのP波速度がほぼ同じ値であることに対し,かんらん岩はX軸方向が最もP波速度が速い傾向を示した.S波速度は片理面に平行に伝播振動する成分が,片理面を横切る伝播方向や振動方向に比べて速い傾向を示した.これらの結果は,片理面に平行なクラックの効果と鉱物の異方性の効果で説明できる.地震波速度は,封圧の上昇とともにやや早くなり,これは割れ目の閉鎖の影響だと考えられる.最大圧力200 MPaでは,異方性が15%程度の孤影,これは鉱物の結晶選択配向によるものだと考えられる.蛇紋岩の電気比抵抗は,Z軸方向よりもX軸方向で測った場合の方が1桁程度低い傾向を示した.一方,かんらん岩の電気比抵抗はZ軸方向とX軸方向でほぼ値が変わらず,蛇紋岩のZ軸成分とほぼ同じ値を示した.電気比抵抗は,封圧の上昇とともに上昇し,これは割れ目の閉鎖の影響だと考えられる.この実験から得られた多成分の地震波速度から,弾性定数テンソルを計算し,岩石のバルクの地震波速度極図を作成した(Mainprice, 2014).この地震波速度極図は,結晶選択配向から作られたものとは異なり,鉱物とクラックの2つの影響を含んでいる.この極点図から異方的な岩石中の地震波速度は,その伝播方向や振動方向に強く依存することが示された.これらの結果と地震波速度や電気比抵抗のトモグラフィーとの比較から,沈み込み帯での流体移動や,クラックの密度について議論を行う.