第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

メインシンポジウム2

「口腔と全身疾患研究の最前線 口腔微生物の“倜儻不羈”」

2023年9月17日(日) 14:10 〜 15:50 A会場 (百周年講堂(本館7F))

座長:川端重忠(阪大 院歯 微生物)、今井 健一 (日大 歯 感染免疫)

15:25 〜 15:50

[MS2-04] 口腔内・腸内マイクロバイオームと膵臓がんや抗がん剤効果予測との関係

〇永田 尚義1 (1. 東京医大 消化器内視鏡)

キーワード:Oral microbiota、Gut microbiota、Chemotherapy

背景と方法:膵臓癌は最も致死率の高い悪性腫瘍の一つであり、その罹患率は世界的に増加している。今回、ショットガンメタゲノム解析を用いて口腔内や腸内のマイクロバイオームを網羅的に同定し、それが膵がんの新たなバイオマーカーとして利用できる可能性を検証した。また、世界で利用できるマーカーの同定のためドイツ人とスペイン人の口腔・腸内マイクロバイオームも調べ、日本人の結果と比較した。一方、動物実験から特定の腸内細菌種の存在が抗がん剤の効果を決定することが分かっているが、ヒトでは十分な研究が行われていない。そこで、膵がん患者において、マイクロバイオームが抗がん剤効果の予測に有用かも検証した。 結果:日本人の膵臓癌患者に特徴的な口腔や腸内細菌種を複数同定し、これらががん予測にも有用であることが判明した。さらに、日本人から同定した膵がん関連腸内細菌種が、ドイツ人やスペイン人の膵がん関連菌種と一部一致することを発見した。膵癌関連腸内細菌種を用いると、膵癌とその他の病気(糖尿病、炎症性腸疾患、大腸癌)を区別できること、また膵がんで増加する菌種は胃酸分泌抑制薬Proton-pump inhibitor (PPI)に伴う菌種変動と類似していることが分かった。さらに、特定の腸内細菌種のグループが膵癌の予後や抗がん剤の効果の予測に有用であることを見出した。さらに、膵がん関連の腸内細菌種の制御方法を探索するため、膵癌菌種に感染する新規ウイルス(バクテリオファージ)を複数同定した。 結論:今回の研究結果は、膵がん早期発見および抗がん剤治療効果予測のための新しい腫瘍マーカーの確立や、常在菌を介した膵がん発症機構およびその制御の解明につながることが期待される。本研究結果はGastroenterology. 2022;163:222-238に掲載された。