一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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シンポジウム3
学校健康診断における色覚に関わる考え方の変遷と今後の在り方

コーディネーター:高柳泰世(本郷眼科)

キーワード:健康診断 色覚 差別

はじめに:本シンポジウムの企画意図 
 
従来日本の学校健診においては色覚検査は「視力」・「色覚」と並べて何気なく施行されてきました.検査にはすべて,目的と,検査後の結果の説明が必要ですが色覚検査にはそれが示されていませんでした.視力は成長過程で変わることがあり,問題がある場合はほとんどが矯正可能であり,検査は有効です.しかし色覚は一生変わらないうえに,検査結果の判定基準が医学的にも定まっていないうえに,典型的な遺伝形式をとるので,目的も検査結果も開示できません.そこで私は1995年に見分けにくい色の組み合わせを知る事後措置の出来る検査CMT(カラーメイト)を作りました.
 かつて学校健診の中で色覚検査法は石原式色覚異常検査表を使用し,誤読した児童・生徒は色覚障害者と判定され,将来の進学・就職にあたって,またその後の人生においても大変不利益を被ってきたと証言されています.1986年度の私の調査では94 大学校中47校(50%)に色覚の入学制限がありました.当時制限大学に制限理由を尋ねましたが,明確な理由は示されず,憶測による慣習的な制限差別であることが判り,一校一校への説明により改善され,制限大学は1996年には国立大学2校,公立大学0,私立大学2校となりました.現在は制限大学は0です.
 厚生労働省は石原表誤読者の能力評価を見直し,2001年から労働安全衛生法改正の折,雇入時の色覚検査を廃止しました.
 文部科学省も見直しを開始し,2003年に学校保健法の一部を改正した折に,定期健康診断から色覚検査を削除しました.現場で色覚検査を担当させられてきた全国の養護教諭たちは石原表誤読者に「色盲・色弱」と宣告しなくてもよくなったと大変喜んでいました.
 ところが文部科学省から2014年4月に「色覚検査の記載はないが,検査希望者を募って積極的に色覚検査をして保護者などへの周知を図る必要がある」との通知が出されたので,検査表には何を使い,誤読者にはどのように説明したらよいかの問い合わせが私のところに沢山寄せられています.学校保健の原点は児童生徒が一生幸せに暮らせる力を育成することです.マイナスの事後措置しかない色覚検査は正確な知識による啓発が必要で,検査は各自必要と認めた時,専門医を受診,相談するものとして,学校内でのスクリーニングは止めるべきと提案します.学校での色覚検査は測り知れない能力を持つ児童・生徒の芽を摘むことになり,大きな人権問題になります.先進諸外国では空軍用CCT,海軍用CADなどが開発されたそうですが,日本にも実際の能力評価をする機運が広まることを期待します.今年の日本学校保健学会では『学校健康診断における色覚に関わる考え方の変遷と今後の在り方』と題して最適なシンポジストに講演していただくことになりました.皆さんで真剣に考えてください.

略歴: 1958年 名古屋大学医学部卒業
   1973年 本郷眼科開設
   1984年 文部省色覚異常時生徒のための教科書太陽改善に関する調査研究委員会委員
   1994年 厚生省健康政策局色覚問題に関する検討会委員
   1991年 日本医師会最高優功賞受賞
   1994年 朝日社会福祉賞受賞
   2019年 叙勲