一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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原理,歴史,制度(OP-0201~0204)

七木田文彦(埼玉大学)

[OP-0201] 湯浅謹而における学校保健の戦前と戦後

高橋裕子 (天理大学体育学部)

 戦後の学校保健をリードした湯浅謹而は,1961年の「学校教育におけるHealth Education の構成」において,それまでの保健教育の変遷を述べるなかで,「このような健康教育は,戦前の産物ではなく,戦前より称せられていた(中略).昭和年代を戦時にいたるまで,学校保健を担当した大西永次郎氏の著書『学校体育と学校衛生』(昭和16年刊)にみるならば,」と戦前の大西の所説を肯定的に引照しながら,戦後の新しい保健教育を説いている.
 ここで想起すべきは,大西の学校衛生論は,昭和初期と総力戦体制期との間に大きな転換があった点である.1938年の著書『全体性と新学校衛生』において,「今日の情勢において,国民の体位とか,在学者の健康とかいふ問題は,単に個人としての立場からの気儘勝手は許されない(中略)国防の強化充実が何よりも先決問題」と述べて,「国防強化」のための体位向上を目的としていた.
 もともと湯浅が引証した大西の『学校体育と学校衛生』は,「支那事変を契機として,日本民族の大陸発展,東亜新秩序の建設といふ未曽有の国策遂行に邁進しつつある」という時代認識を基調としつつも,なお昭和初期の学校衛生論の延長線上の所説を含んでいた.そのため,湯浅が積極的に引き継いだ内容がある反面,引き継がなかったものもあった.本発表では,この大西の著書(第3版)を主資料として,学校保健の戦前戦後/連続不連続の問題を考察したい. 
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