一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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シンポジウム6
学校保健活動の充実に向けた取り組みとその評価

コーディネーター:羽賀將衛(北海道教育大学),西岡伸紀(兵庫教育大学)

[SY6-1] 保健教育の実践とその評価:学校医等が参加する保健教育の可能性を考える

伊藤武彦1, 伊藤恵子2, 岩田祥吾3 (1.岡山大学学術研究院教育学域, 2.くらしき作陽大学食文化学部, 3.南寿堂医院)

キーワード:生活習慣病予防 がん教育 性に関する指導

はじめに
 学校における保健教育は,学習指導の場面はもちろん,個別または集団に対してあらゆる機会を有効に活用してなされるものである.学校医やその他の医師(以下学校医等)が保健教育に参加することによって専門的な知識や技術を基盤にした保健教育が可能になるだけでなく,学校と地域医療機関等が日頃から連携・協働することにつながり,地域の子どもたちを守り育てるために大きな力を発揮することが見込まれる.
 
対象と方法
 学校医等(園医を含む)が関わる学校・園での実践例を文献等調査の対象とした.またチームのメンバーがこれまでに経験・実践してきた事例及びそのフォローアップも事例に含めた.これらの文献から学校医等が保健教育に参加することが期待される領域と,その領域における教育方法・内容について学校医等の立場から提案を試みた.

結果と考察
1 .学校医へのアンケート調査などからの総論的知見
 日本医師会総合政策研究機構の2018年の報告,日本小児科医会の調査(2004),東京小児科医会の調査(2010)により医師等が関わる健康教育のテーマや諸課題が見出された.

2 .医師が関わる保健教育の分野ごとの具体例
 a.生活習慣病予防,食育,睡眠,喫煙防止に関する指導
 個別保健指導の場面で肥満対応(飯塚他,2010),医師の積極的な食育活動への参加(児玉,2010),地域連携による年長幼児全体に食育活動(静岡県小山町)や睡眠指導による小学生のQOLへの効果(尾崎他,2017)などが見出された.喫煙防止教育では教育前後にアンケートにより効果測定をした報告が複数あった(佐藤他,2008,2012;奥田他,2012;原と田中,2013;家永他 2014).
 c.がん教育
 「令和元年度がん教育総合支援事業事業成果報告書」(文部科学省)に取り組み事例が集積されて,緩和医療を
含むがん治療にあたる医師が講師となった事例が多く見られた.実践の場での医師の役割や学校との事前の打ち
合わせについて(林,2018)など医師が学校教育に積極的に関わるために事前に必要な知識・技術を取り上げた
ものもあった.
 d.性教育,命の教育
 小学生への「命のバトンタッチ」(岡空,2002),学校と行政が協働して中学生を対象に性教育を行いHPVワク
チン接種にもつなげた例(岩田,2015),地域の医師会が小学校から高等学校までカバーする体制で性教育に取り組んでいる例(末包,2009)などが学校医の実践例として挙げられた.

3 .私たち自身の実践の振り返り
 新型コロナウイルス感染症の実態や予防法の把握,家庭・地域との連携などの場面で医師としてかかわり,児童生徒等への直接の保健指導だけでなく,教育活動の安全な実施を図ることによって間接的に教育の円滑な実施と成果の確保を行う場面があり,学校医等が関わることの意味を再認識した.

結論
 学校医等の関わる健康教育では専門的な知識・技術と臨床経験にもとづいた健康と疾病に関する確かな知見と命の大切さなど心を動かす内容が期待される.学校が対応を必要とする新しい健康課題に迅速かつ柔軟に学校医等が保健教育を提供できることこそが今後の展望として重要と考えられた.