一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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シンポジウム6
学校保健活動の充実に向けた取り組みとその評価

コーディネーター:羽賀將衛(北海道教育大学),西岡伸紀(兵庫教育大学)

[SY6-2] チャレンジスクールの生徒を対象とした精神保健教育プログラム実践の試み―3年間の実践評価

宮城真樹 (東邦大学看護学部)

キーワード:精神保健教育 高校生 チャレンジスクール

目的
 思春期・青年期における精神的健康に関する問題は年々深刻さを増しており,学校教育の中で精神的健康に関するより積極的な対応が喫緊の課題であるといえる.
 筆者は,2016年度より不登校経験者や高校中退経験者を積極的に受け入れているであるA高等学校(チャレンジスクール)において,精神保健教育プログラム(こころのウォッチング,心きらめくエクササイズ)を実践している.本プログラムで具体的に生徒がどのような学びを得ているのかを明らかにし,本プログラムの効果を検討することを目的とする.

方法
 2018年度から2020年度までの3年間の本プログラム履修出席者(こころのウィッチング履修者合計73名,心きらめくエクササイズ履修者合計64名)を対象に,毎授業終了時に実施した自記式質問紙調査を統計的に分析した.また,生徒がプログラムのまとめとして作成した「こころの健康を保つための提案書」の記載内容について分析した.精神疾患に関する知識については,授業前後で自記式質問紙調査にて実施し,その内容を比較した.

結果
 本プログラムの履修者の全体の出席率は6割弱であった.出席者の授業理解度は3年間を通して80%を超えていた.
精神的健康度(GHQ5)の低得点者は,初回授業時と最終回授業時の比較において,約5%~ 21.5%減少した.
 「こころの健康を保つための提案書」の内容を分類した結果,生徒の心の不調のサイン,めざす心の健康状態とその状態になるための方法が具体的に記載できていた.こころの健康状態が良くないサインは延べ項目,1名平均5.5項目,めざすこころの健康状態は延べ項目,1名平均3.6項目,めざすこころの健康状態になる方法は,延べ197項目,1名平均4.7項目の記載があった.
 精神疾患に関する知識については,授業前は「わからない」「知らない」などの回答が授業後には減少し,概ね正しい内容の記載が増加した.正誤問題の正答率も授業後に増加した.

考察
 履修者数は基本定員20名のところ例年定員以上の生徒が履修登録しており,自由選択科目の中で最も多い履修者となっている.出席率も当該校では60%を超えると良好な出席率と見なされる中,60%に近い出席率を維持できていることは,生徒のメンタルヘルスに対する関心は高いと考えられる.この関心の高さが授業に向かう姿勢に影響し,授業理解度の高さにつながっていると考えられる.今回わずかではあるが精神的健康度(GHQ5)が改善していることがわかった.授業による効果であるということはできないが,一助にはなった可能性は考えられる.
 提案書の記載内容は授業内で取り扱った内容を自分の言葉で記載することができており,本プログラムの目標につ
いて概ね達成できたと考えられる.
 精神疾患に関する知識については,授業前は「わからない」「知らない」などの回答が授業後に減少し,概ね正しい内容の記載が増えたことは,精神疾患に関する基本的知識の習得につながったと考えられる.また,正誤問題の正答率も授業後に増加し,精神疾患が特別な疾患ではないこと,誰にでも起こりうる身近なものであるという理解も得られたと考えられる.

結論
 本プログラムの授業理解度は概ね80%以上であり,生徒の心の不調のサイン,めざす心の健康状態とその状態になるための方法が具体的に記載できていること,精神疾患に対する基本的知識の習得と偏見の是正も一定の評価ができることから,本プログラムの目標は概ね達成できていると考えられた.