第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-10] 一般演題:脳血管疾患等 10

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 第2会場 (Annex1)

座長:岡部 拓大(東京家政大学)

[OA-10-3] 口述発表:脳血管疾患等 10脳損傷者のself-awareness評価法「The Awareness Questionnaire(AQ)」の日本語版作成および信頼性・妥当性の検討

福山 千愛12竹林 崇2竹内 健太12島田 真一3 (1. 伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション部,2.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 3.伊丹恒生脳神経外科病院脳神経外科)

【諸言】Self-awareness(以下,SA)の低下は,周囲や自身の問題点を含めた行動に対し俯瞰視が不能となるため,多くの場面で危険行動や行動抑制に対する援助を必要とする.近年,リハビリテーションの実施において,身体機能や認知機能だけでなくSAも意識する必要があると指摘されているが,アウトカムや介入方法については十分に検討されていない.
【目的】諸外国で用いられているSA評価法「The Awareness Questionnaire(AQ)」の日本語版を作成し,脳卒中を呈した対象者を対象に,その信頼性・妥当性について検討する.
【方法】前向きかつ横断的な他施設共同研究である.研究対象の包含基準は,脳卒中を呈した20〜90歳の男女,意思決定が可能であり研究参加の文書同意が得られた者,以下の評価実施が可能な言語能力を有する者とした.本研究は大阪府立大学の倫理審査の承認(2020-204)を受けている.評価法作成にあたっては,COSMINに準じた. 日本語版AQ は,原著者の使用許可を得たのち,SF-36の手順に準じダブルトランスレーションを行った.対象者情報として,年齢,性別,疾患名,損傷半球,損傷部位,利き手,教育歴,発症からの日数,GCS,MMSE,FIMを抽出し,MMSE,TMT,WCST,digit span,Reyの複雑図形課題,SA評価である日本語版AQ,日本語版SRSIを測定した.すべての評価は,日本語版AQ実施の前後1週間以内で実施された.信頼性の検討として,内的整合性の検討,検者内検者間信頼性の検討として,級内相関係数,重み付けKappa係数を算出した.その後,Bland-Altman plotを作成し,系統誤差,偶然誤差の有無を確認した.検者内信頼性の検討では,同一の対象者と療法士が,最大間隔3日以内に2回評価を実施し,検者間信頼性の検討では,3名の療法士が同一の人物を最大間隔3日以内に評価した.妥当性の検討として,基準関連妥当性の検討には,日本語版AQと各指標との関係を調べた.構造的妥当性の検討として,因子分析を行った.また, 日本語版AQの天井効果と床効果の影響を検討した.統計解析は,R,JMP,Jamoviを使用し有意水準を5%とした.
【結果】日本語版AQ作成においては,ダブルトランスレーションなどの手続きを4回行い完成させた.本研究の参加者は130名であり,データ欠損などにより120名のデータを採用した.検者内検者間信頼性についてはBonnet法に基づき,13名とした.内的整合性の検討では,患者用がCronbach α係数=0.824,医療者用がα=0.933と高い信頼性を担保していた.検者内検者間信頼性の検討では,AQ全項目ではICC(1,1),(2,1),(3,1)ともに0.8を超える結果であり,高い信頼性が担保された.しかしながら,項目毎に分析を行うと項目を絞り中程度の信頼性に留まった.これらは先行研究同様の傾向であった.妥当性の検討では,日本語版AQと日本語版SRSI(r=0.209;p<0.05),MMSE(r=-0.197;p<0.05)との間に弱い相関関係が認められ,日本語版AQの指すSAとは独立した概念であると考えられた.構造的妥当性では,幾つかの項目で原版と異なる尺度構造を示し,脳卒中患者とTBI患者が示すSA障害の概念が異なる可能性や入院の環境制限因子の影響が考えられた.また,天井効果と床効果は認められなかった.
【本研究の限界と今後の展望】限界として,日本語版AQの評価者基準や方法が統一されてなかった可能性がある.また原版とは対象や環境制限因子が異なるため,AQを脳卒中患者に使用する際には,構成概念妥当性より真にSAという概念を評価することが可能であるかについての検討や項目削除などの手入れが必要と思われた.これにより,脳卒中版AQの作成が可能となる.加えて, AQの尺度特性について,共分散構造分析や項目反応理論などの詳細な検討が必要であると思われた.