[OA-9-2] 口述発表:脳血管疾患等 9脳卒中後上肢麻痺への治療選択に関する意思決定―理学療法士・作業療法士に対する質問紙調査研究―
【はじめに】
近年,根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine; EBM)が普及し,脳卒中後上肢麻痺に対する治療法については,多くの研究によって,その有効性が検証されている. 一方で,治療法を提供する療法士については,療法士が暗黙的に治療法を決定していることや,患者が意思決定に参加するための情報提供が不足していたことを報告している.そのため,EBMの実践については,エビデンスのみでなく療法士の個人因子や支援リソースの開発が重要とされている.そこで,患者と医療者との意思決定を明確にするためのツールとして意思決定支援ツール(Decision Aid;DA)がある.DAの作成には医療者と患者の,それぞれの意思決定に影響を与える要因を評価することが推奨されているが,脳卒中後上肢麻痺に対する治療選択について,その意思決定に影響を与える要因は何かを調査した研
究はない.本研究の目的は,脳卒中後上肢麻痺への治療法に対するDAの作成に向けて,療法士を対象とした質問紙項目を行うことで,上肢麻痺への治療法を調査すること,およびその意思決定要因を明らかにすることである.
【方法】
本研究は質問紙を用いた横断研究である.質問紙は「第1部:回答者の人口統計学的特徴」「第2部:治療法の選択」「第3部:治療選択の意思決定要因」の3部構成とし,MOS Short-Form 36-ItemHealth Surveyの手順に準じ,先行研究の質問紙項目から作成した.第2部で提示する治療法は,脳卒中後上肢麻痺に対する治療法のシステマティックレビューおよび治療ガイドラインから,専門家数名と協議し,24の治療法を選定した.回答者は上肢麻痺の重症度ごとに最も臨床で用いる治療法を一つずつ選択するよう求められた.対象は日本で脳卒中患者の治療に携わる理学療法士(PT),作業療法士(OT)とし,回答者には,質問紙への回答を行う前に,研究概要と個人情報保護について提示し,回答をもって研究への同意が得られたものとすることを明記した上で回答を募った.人口統計学的特徴と,上肢麻痺に対する治療法は重症度別に記述的統計量を算出した.意思決定要因では,質問紙項目の内的整合性をCronbachのα係数,回答データの分布を記述統計量,天井効果とフロア効果の有無を回答の平均値と標準偏差で検討した.要因間の比較は,一般線形モデルとBonferroni法による多重比較,効果量(r)で検討した.なお,本研究は倫理委員会の承認を受けている.
【結果】
PTとOT,640名から回答が得られ,PT・OT以外の職種からの2件の回答を今回の研究では除外した.回答はOTがPTよりも多かった(OT477名,74.5%;PT161名,25.2%).軽度,中等度の上肢麻痺への治療法としては課題指向型練習,促通反復療法,重度の上肢麻痺へは電気刺激療法が最も選択された.意思決定要因では,「卒後教育における学習・訓練内容」,「治療法の有効性に対するエビデンス」,「患者の価値観・希望」,「治療法を用いた臨床経験」,「治療法に必要な物品の入手可能性」の5つの要因がより強く意思決定に影響を与える可能性が考えられた.
【考察】
本研究で明らかとなった療法士の脳卒中後上肢麻痺への治療選択の意思決定要因は,Haynesらの述べたEBMの4つの要素と一致する.つまり,療法士はHaynesらが定義したEBMの4つの要素が,脳卒中後上肢麻痺への治療選択を行う上でより重要となると考えている可能性がある.本研究の限界は,回答者のサンプリング,治療選択における治療法の提示が先行研究と異なっていたこと,回答の分布の偏りの3点にあると考えられる.
近年,根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine; EBM)が普及し,脳卒中後上肢麻痺に対する治療法については,多くの研究によって,その有効性が検証されている. 一方で,治療法を提供する療法士については,療法士が暗黙的に治療法を決定していることや,患者が意思決定に参加するための情報提供が不足していたことを報告している.そのため,EBMの実践については,エビデンスのみでなく療法士の個人因子や支援リソースの開発が重要とされている.そこで,患者と医療者との意思決定を明確にするためのツールとして意思決定支援ツール(Decision Aid;DA)がある.DAの作成には医療者と患者の,それぞれの意思決定に影響を与える要因を評価することが推奨されているが,脳卒中後上肢麻痺に対する治療選択について,その意思決定に影響を与える要因は何かを調査した研
究はない.本研究の目的は,脳卒中後上肢麻痺への治療法に対するDAの作成に向けて,療法士を対象とした質問紙項目を行うことで,上肢麻痺への治療法を調査すること,およびその意思決定要因を明らかにすることである.
【方法】
本研究は質問紙を用いた横断研究である.質問紙は「第1部:回答者の人口統計学的特徴」「第2部:治療法の選択」「第3部:治療選択の意思決定要因」の3部構成とし,MOS Short-Form 36-ItemHealth Surveyの手順に準じ,先行研究の質問紙項目から作成した.第2部で提示する治療法は,脳卒中後上肢麻痺に対する治療法のシステマティックレビューおよび治療ガイドラインから,専門家数名と協議し,24の治療法を選定した.回答者は上肢麻痺の重症度ごとに最も臨床で用いる治療法を一つずつ選択するよう求められた.対象は日本で脳卒中患者の治療に携わる理学療法士(PT),作業療法士(OT)とし,回答者には,質問紙への回答を行う前に,研究概要と個人情報保護について提示し,回答をもって研究への同意が得られたものとすることを明記した上で回答を募った.人口統計学的特徴と,上肢麻痺に対する治療法は重症度別に記述的統計量を算出した.意思決定要因では,質問紙項目の内的整合性をCronbachのα係数,回答データの分布を記述統計量,天井効果とフロア効果の有無を回答の平均値と標準偏差で検討した.要因間の比較は,一般線形モデルとBonferroni法による多重比較,効果量(r)で検討した.なお,本研究は倫理委員会の承認を受けている.
【結果】
PTとOT,640名から回答が得られ,PT・OT以外の職種からの2件の回答を今回の研究では除外した.回答はOTがPTよりも多かった(OT477名,74.5%;PT161名,25.2%).軽度,中等度の上肢麻痺への治療法としては課題指向型練習,促通反復療法,重度の上肢麻痺へは電気刺激療法が最も選択された.意思決定要因では,「卒後教育における学習・訓練内容」,「治療法の有効性に対するエビデンス」,「患者の価値観・希望」,「治療法を用いた臨床経験」,「治療法に必要な物品の入手可能性」の5つの要因がより強く意思決定に影響を与える可能性が考えられた.
【考察】
本研究で明らかとなった療法士の脳卒中後上肢麻痺への治療選択の意思決定要因は,Haynesらの述べたEBMの4つの要素と一致する.つまり,療法士はHaynesらが定義したEBMの4つの要素が,脳卒中後上肢麻痺への治療選択を行う上でより重要となると考えている可能性がある.本研究の限界は,回答者のサンプリング,治療選択における治療法の提示が先行研究と異なっていたこと,回答の分布の偏りの3点にあると考えられる.