第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-10] ポスター:運動器疾患 10

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-10-3] ポスター:運動器疾患 10重度感覚障害を伴う頚椎症性脊髄症症例に対する視覚フィードバックを用いたリハビリテーション介入

細川 大瑛1,2鈴木 学1花田 恵介3,4板口 典弘5 (1国立病院機構仙台西多賀病院,2東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野,3阪和記念病院リハビリテーション科,4大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科,5慶応義塾大学文学部)

[はじめに]頚椎症性脊髄症(CSM:Cervical Spondylotic Myelopathy)は,椎間板変性による脊髄圧迫症状として手指の巧緻運動障害,ミエロパチーハンド,歩行障害などを認める疾患である.しびれなどの感覚障害は上肢に高頻度に認め,重篤であれば日用品操作が阻害される.脳血管障害に伴う感覚障害に対して,患者の把持力を視覚的に提示しながら物品を操作する訓練を行い,操作能力が改善したとの報告(Saoら 2011, 北ら 2016.)はあるが,CSMに対する報告はない.今回,重度の感覚障害を伴う椎弓形成術後CSM症例に対し,把持力を視覚的に提示しつつ物品操作訓練を実施した.その結果,物品操作能力が向上した症例を経験したので報告する.本症例に発表の目的や倫理的配慮について説明し,文書による同意を得た.
[症例]60歳代男性右利き.特殊車両の運転業務.X年左手のしびれ,X+4年に右手のしびれを自覚,X+8年前に手指の巧緻動作障害と排尿障害が出現した.頚椎症性脊髄症の診断でX+14年に当院でC3-C6の椎弓形成術を受けた.術後2日目より理学療法と作業療法を開始した.頚部脊髄症質問票(JOACMEQ)の上肢機能は68(0-100の間で大きな値が良好)であった.
[初期評価]両手関節以遠の表在覚障害と両上下肢の深部感覚障害を認めた.触覚はSemmes Weinstein Monofilament Test(SWT)で評価し,左右手背は防御知覚低下,左右の手掌と手指は防御知覚脱失~測定不可能レベルであった.素材同定や大小弁別,物品の触覚呼称はできなかった.筋力に問題はなかった.母指探し試験はII度/II度,STEFは54/25,ARATは40/27,10秒テストは16回/16回であった(全て右/左で表記).物品をつまむ際の各指の運動方向が頻繁に不適切となり,滑り落とすことが多かった.ADLは,箸が使いにくいためスプーンを使用し,書字やボタンかけが困難であった.
[介入]症例より,「持った紙コップを潰してしまう,箸を使うと食べ物をつぶして落とす」といった,筋出力調整の困難さを伺わせる訴えが聞かれた.そこで,症例の指が物体に加えている力の大きさをリアルタイムに視覚情報としてフィードバックできるシステムを作成し,物体操作訓練を行った.具体的には,市販のマイクロコンピュータであるArduino Uno(Arduino LLC社製)をシート型感圧センサーFSR402 (Interlink社製)と接続し,センサーにかかった力がPC画面にグラフとして表示されるようプログラムした.訓練内容としては,FSR402を張った積み木(剛体)や紙コップ(非剛体)を用い,つまみ上げたり持ち替えたりする動作を,担当作業療法士が同様の課題を実施した時の筋出力に近づくようにPC画面で参照しながら行った.訓練は40分/回を5回/週,3週間行った.
[結果]SWTで評価した手部の触覚は,右手背は触覚低下,右手掌と左手背は防御知覚低下,左右の手指が防御知覚脱失レベルとなった.母指探し試験はII度/II度,STEFは62/37,ARATは49/31,10秒テストは17回/16回となった(全て右/左で表記).JOACMEQの上肢機能は79となった.症例は「箸が使いやすくなった」「紙パックをつぶさずに飲めるようになった」と語り,日常生活で両手の使用感が変化したことが伺われた.
[考察]本症例は筋出力と力をかける方向の不適切さによって物品操作能力が阻害されていたが,視覚情報のフィードバックによって不適切さをリアルタイムに修正でき,物品操作能力が向上したと考えられる.本症例は,自身の手を注視しながら運動を行う傾向があった.今回の介入では把持力を視覚的情報として提示したため,症例は自身の手先とフィードバック情報の両方を注視する必要があった.今後は,症例の負担を考慮した改良の必要性が示唆された.