第56回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-10] ポスター:運動器疾患 10

Sat. Sep 17, 2022 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PD-10-4] ポスター:運動器疾患 10上位頸椎固定術後患者への自宅生活を想定した術前・後の作業療法

吉岡 洋樹1田口 真哉1堤本 高宏2二木 俊匡2 (1社会医療法人 抱生会 丸の内病院リハビリテーション部,2社会医療法人 抱生会 丸の内病院整形外科 脊椎外科センター)

【はじめに】頸髄症は進行とともに筋力低下や感覚障害,歩行障害などを伴い,ADLに様々な影響を及ぼす.作業療法(OT)では,機能評価・訓練に加え,患者の生活背景に応じたADL訓練が必要となる.今回,術前・後から退院時の生活を想定したOTを実践し,円滑な退院へつなげることができたので報告する.
【症例紹介】年齢70歳代,男性.診断名:頚椎症性頸髄症,環軸椎亜脱臼,軸椎歯突起後方偽腫瘍.
現病歴:X年4月に後頸部痛出現し,その後,肩~背中~両腕~両足先まで全身にしびれが出始め,急激にしびれが拡大した.X年9月初旬より運転や料理も困難となり,手術目的で当院入院.術式:C1椎弓形成術(LMP,Notch法)C1-2固定術(C2左外側塊スクリュー/右椎弓根スクリュー),C3-4開窓術. 腸骨及び同種移植代用骨骨移植.息子夫婦の3人暮らし.仕事は農家.ニーズは「食事を自分で食べたい」「自分で料理する必要がある」「農家に関わる事務仕事は続けたい」
【術前評価】自動関節可動域(右/左):肩関節屈曲120/110外転80/70,握力:17.5/8.9㎏,ピンチ力(kg):指腹2.0/1.6,横3.4/2.4,感覚:両上肢・手指・体幹・両下腿部鈍麻,手指屈伸10秒テスト:11/10,FES:grade0/2,パーデューペグボード:右2左0両手1合計3アセンブリー2,DASH:70.4.歩行器で10~20m移動可能. 
【作業療法】術前OTでは,術後装着するオルソカラー自己着脱できるように加工や着脱方法を指導.さらにカラー装着での離床時のギャッジアップ使用,ベッド上でのポジショニング,動作時の視野範囲の確認をした.術後翌日からカラー装着下で離床開始.OTでは頸部~肩甲帯周囲訓練,知覚再教育・筋力訓練,巧緻性訓練実施.ADLでは,食事時のテーブルの高さや自助具,視覚代償に鏡の設置の環境調整した.退院後の調理動作に対しては,包丁操作などの実際の動作練習を行い,キッチンばさみ等での代償方法や頸部の過回旋や過屈曲を行わない動作確認や電化製品の配置も検討した.事務仕事では,実際にパソコン操作を行い,姿勢の確認や作業する台の高さ,タイピング方法なども相談した.術後29日,カラーOFF,これまでのADLを再確認し,術後35日,「自分の手でやりたいことができるのは幸せ」「もう仕事できないと思ったが,帰ったらまた仕事に関われそうで嬉しい」との発言があり,自宅退院となった.
【退院前評価】自動関節可動域(右/左):肩関節屈曲135/135 外転135/135,握力21.3kg/14.4kg,ピンチ力(kg):指腹5.2/2.8,横6.0/4.4,感覚:両上肢・体幹・両下腿部感覚鈍麻残存,手指屈伸10秒テスト:24/22,FES:grade0/0,パーデューペグボード:右5左3両手2合計10アセンブリー8.DASH:39.4.独歩自立.食事はスプーン,フォークで摂取.立位で調理動作やパソコン操作が可能となり,事務仕事の復帰となった.
【考察】上位頸椎固定後の生活様式の変化への対応として,希望であった食事,キッチン回り動作,事務仕事時に支障をきたすことが予測された.そこで術前では,スムーズな離床獲得,生活動作につなげる基本動作を指導調整すること,また術後は食事場面やキッチン,仕事環境を確認し,動作指導・環境調整を行うことで症例が望む生活動作の再獲得ができた.このように術前・後から自宅での生活を想定することで自宅生活でのイメージができ,生活様式の変化への順応が可能となり,円滑な退院につなげることができたと考える.