[PD-10-5] ポスター:運動器疾患 10意味のある作業に内在する価値に注目した作業形態の変更により病前の日課を再獲得した頸髄損傷後の一例
【序論】意味のある作業とは,日常の全ての活動ではなく,個人と文化によって価値と意味が与えられた活動とされる.すなわち,意味のある作業の再獲得のためには,作業に内在する価値のある行為を判断し,獲得に向けた介入や工夫が必要となる.今回,頸髄損傷により運動・感覚障害が残存し,Aid for Decision-making in Occupation Choice (ADOC)で抽出された囲碁に従事することが妨げられている症例に対して,動作分析を行い作業形態の変更をした上で意味のある作業の再獲得に繋がった症例を報告する.尚,本発表に関してご本人の同意を得た.
【目的】動作分析を行い身体機能に合わせ作業形態を変更し,意味のある作業の再獲得に至った介入過程とその思考過程を示す.
【方法】症例は,自動車事故により頸髄損傷を受傷し,同日に第3-6頸椎の椎弓形成術を施行され当院へ入院された80歳代の男性であった.病前のADL,IADLは自立しており,有段者として囲碁を友人と行う為に外出することを日課としていた.入院時のASIA機能障害尺度(AIS)はC(運動不全麻痺),上肢の運動機能は右側が14点,左側が13点,感覚機能(触覚)は右側が30点,左側が20点,握力と簡易上肢機能検査(STEF)は測定困難であり,Mini-Mental State Examination(MMSE)は20点であった.入院時よりADOCを用いた面接で囲碁が抽出され,満足度は1であった.入院から2ヵ月後,作業療法介入時に囲碁の再獲得に向けた介入を開始した.この時のSTEFは右手が5点,左手が11点,握力は右手が5.6kg,左手が測定困難であった.MMSEは30点で,静的三指つまみ(母指外転遠位型)で,鉛筆を把持し書字を遂行された.囲碁の実施は,母指,示指間の指腹つまみで碁石を把持し碁盤に置くことは可能だが,碁盤上に置かれた他の碁石を触れて動かしてしまい,他者に迷惑をかけるといった理由から対局するまでには至らなかった.病前の形態で獲得を目指すと,遂行状況を病前と比較し,期待する役割の水準に達せず作業の喪失の可能性があった.症例にとって囲碁は,戦略を練りながら他者の援助なく対局することに価値が置かれていると推察し,机上で書字に用いる方法を応用できるか確認し,作業形態をタブレットに変更を行い,オンライン上で他者と対局する機会を提供した.
【結果】4ヵ月の介入を通じて,囲碁の満足度は3へ向上した.詳細は,タッチペンでタブレットを操作する際に意図していない部位に触れ,遂行の阻害となった為に3に留まった.しかし,ご本人よりオンライン上での囲碁に対して「起きている時の最高の暇つぶし,今までは空き時間が1時間あれば寝ていたけど今はあっという間だね」という感想が聴取された.余暇には,書字練習やタッチペンを用いてオンライン上で囲碁を行う等,自発的に作業に取り組まれる行動を認めた.AISはC,運動機能は左右共に15点,感覚機能は右側が43点,左側は36点となった.握力は右手が7.4kg,左手が7.1kg,STEFは右手が20点,左手が15点となり,上肢の感覚機能への変化は乏しかったが運動機能は向上した.
【考察】作業遂行は作業形態によって誘発された行動とされる.対局することに対し,身体機能に応じた物理的環境に着目し,作業形態を変えた上で動機付けとして作業に従事出来る成功体験を経験され,作業有能性が改善し,ADOCにおける満足度の向上が認められたと考えられる.また,症例では書字が獲得した時期に既に作業形態の変更を行えば,遂行が可能であったことが予測された.より満足度の向上に貢献するには詳細な物理的環境調整を行うと共に,反復的課題指向型訓練を行い,作業形態を戻すことが有効と推察される.
【目的】動作分析を行い身体機能に合わせ作業形態を変更し,意味のある作業の再獲得に至った介入過程とその思考過程を示す.
【方法】症例は,自動車事故により頸髄損傷を受傷し,同日に第3-6頸椎の椎弓形成術を施行され当院へ入院された80歳代の男性であった.病前のADL,IADLは自立しており,有段者として囲碁を友人と行う為に外出することを日課としていた.入院時のASIA機能障害尺度(AIS)はC(運動不全麻痺),上肢の運動機能は右側が14点,左側が13点,感覚機能(触覚)は右側が30点,左側が20点,握力と簡易上肢機能検査(STEF)は測定困難であり,Mini-Mental State Examination(MMSE)は20点であった.入院時よりADOCを用いた面接で囲碁が抽出され,満足度は1であった.入院から2ヵ月後,作業療法介入時に囲碁の再獲得に向けた介入を開始した.この時のSTEFは右手が5点,左手が11点,握力は右手が5.6kg,左手が測定困難であった.MMSEは30点で,静的三指つまみ(母指外転遠位型)で,鉛筆を把持し書字を遂行された.囲碁の実施は,母指,示指間の指腹つまみで碁石を把持し碁盤に置くことは可能だが,碁盤上に置かれた他の碁石を触れて動かしてしまい,他者に迷惑をかけるといった理由から対局するまでには至らなかった.病前の形態で獲得を目指すと,遂行状況を病前と比較し,期待する役割の水準に達せず作業の喪失の可能性があった.症例にとって囲碁は,戦略を練りながら他者の援助なく対局することに価値が置かれていると推察し,机上で書字に用いる方法を応用できるか確認し,作業形態をタブレットに変更を行い,オンライン上で他者と対局する機会を提供した.
【結果】4ヵ月の介入を通じて,囲碁の満足度は3へ向上した.詳細は,タッチペンでタブレットを操作する際に意図していない部位に触れ,遂行の阻害となった為に3に留まった.しかし,ご本人よりオンライン上での囲碁に対して「起きている時の最高の暇つぶし,今までは空き時間が1時間あれば寝ていたけど今はあっという間だね」という感想が聴取された.余暇には,書字練習やタッチペンを用いてオンライン上で囲碁を行う等,自発的に作業に取り組まれる行動を認めた.AISはC,運動機能は左右共に15点,感覚機能は右側が43点,左側は36点となった.握力は右手が7.4kg,左手が7.1kg,STEFは右手が20点,左手が15点となり,上肢の感覚機能への変化は乏しかったが運動機能は向上した.
【考察】作業遂行は作業形態によって誘発された行動とされる.対局することに対し,身体機能に応じた物理的環境に着目し,作業形態を変えた上で動機付けとして作業に従事出来る成功体験を経験され,作業有能性が改善し,ADOCにおける満足度の向上が認められたと考えられる.また,症例では書字が獲得した時期に既に作業形態の変更を行えば,遂行が可能であったことが予測された.より満足度の向上に貢献するには詳細な物理的環境調整を行うと共に,反復的課題指向型訓練を行い,作業形態を戻すことが有効と推察される.