第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-6] ポスター:高齢期 6

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-6-4] ポスター:高齢期 6新型コロナウイルス感染により自宅復帰困難となったが,人間作業モデルにより前向きになれた一症例

江端 健治1山田 孝2 (1医療法人 愛全会 愛全病院,2東京保健医療専門職大学)

【はじめに】新型コロナウイルス(COVID-19)感染をきっかけに自宅復帰が困難となった症例に対し,人間作業モデル(以下MOHO)を基に目標と計画を話しあって決めたことで,新しい活動に興味が持て,生活への満足度が高まった症例を報告する.発表に際し対象者の承諾を得ている.
【現病歴】A氏.男性.70歳代前半.X年4月2日無症状だがPCR検査陽性判定で4月7日B病院に入院した.感染は治癒したが,同居する妻が不安とのことで,4月20日リハ目的で当院に転院した.
【生活歴】高校からラグビーを続けてきた.40歳過ぎに脊椎性筋萎縮症により右上肢機能が低下した.X-1年4月に頚椎症術を受けてから室内での転倒をくり返し,妻の介助が必要になる.施設への移住を考えたが,金銭面の都合がつかずに見送っている.9月に腰部脊柱管狭窄症術施行した.12月からデイサービスの利用を開始した.
【初期評価(X年4月21日)】腰痛と両下腿にしびれ,全身の筋力低下と強い筋の張りがあり.腰痛のため床からの立ち上がりは困難である.短距離歩行はT字杖,長距離歩行は歩行器歩行で安定する.性急に話し,表情変化は乏しい.HDS-R26点.他者交流はなし.入浴時洗体は一部介助だが他ADLは自立している.日中は自室で体操やクロスワードをして過ごす.満足度100点法は50点.
【作業に関する自己評価(以下OSA)を介した面接(X年4月21日)】できない現状を直視しないようにしている,キャッチボールなどはやりたくてもやらない,歩いて動ける状態でいたい,妻が心配でそばにいてやりたいが負担になるのは気が引ける,楽しめる場がない,と話す.
【目標と計画】A氏と話しあい,張り合いのある生活を送ることを目標に,楽しみを見いだせる活動をすること,退院先の調整をすること,要望に応じて対応することという計画を立案する.
【経過1(X年4月22日~5月7日)】軽いボールでのキャッチボールは次第にうまくなり笑顔が増える.サービス利用なら自宅復帰可能レベルにあることを他部門と確認し,妻の意向の確認をすることとなった.
【経過2(X年5月10日~6月9日)】ジェンガやオセロ,風船つきにも好反応を示す.A氏と妻が話しあい施設退院の方向になった.
【経過3(X年6月10日~7月2日)】穏やかに会話するようになる.高齢者住居への入居が決定したが落ち着いた様子を示した.
【再評価(X年7月5日)】腰痛は消失する.全身筋力が増強し筋の張りはやや緩和する.床からの立ち上がりは支えがあれば可能となる.穏やかで笑顔が増える.HDS-R29点.満足度100点法は70点.ゴール先が施設になっても満足度があがったことに対し「運動しているし右手でボールも投げられるようになった.施設は仕方がない」と話す.
【OSAを介した面接(X年7月5日)】キャッチボールなど楽しくやっているからデイサービスでも続けたい,妻の面倒はもう見なくてもいいと思うと話す.習慣化以外の項目が上昇している.
【考察】COVID-19感染をきっかけに自宅復帰が困難になった症例に対して,MOHOに基づき現状の問題点を明確にして,目標と計画をA氏と話しあって決めたことにより,A氏は積極的姿勢になり新しい活動にも興味が持て,自宅退院できなくとも生活に対し前向きな観点を得ることができたと考える.今後は退院先のケアマネージャーに情報を伝達し,院内の感染対策上でできなかった家族や他者との交流を検討してもらい,さらに肯定的感覚を得られるよう支援していく必要があろう.また,入院生活はある程度の行動制限が避けられず,生活パターンに変化を持たせることが難しかったため,習慣化の項目が変化しなかったと考え,早期退院の重要性をあらためて理解した.