第56回日本作業療法学会

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[PN-7] ポスター:地域 7

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-7-5] ポスター:地域 7住宅改修における作業療法士が多職種と連携する意義

但野 修理1 (1医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック)

【はじめに】
 作業療法士(以下,OT)が住宅改修に関わり,日常生活を支援することは役割の1つである.一方,住宅改修は建築情報,導入する福祉用具及び製品の情報等を把握し改修案を構築する必要があり,住宅改修に関わる多職種との連携は必須である.しかし,OTと住宅改修に関わる多職種との連携に焦点を当てた報告は少ない.そこで,訪問リハビリテーションでトイレ改修を多職種と検討した症例から,OTが住宅改修に関わる多職種と連携する意義について考察したため報告する.本報告にあたり対象者へ説明し,同意を得ている.
【症例紹介】
 対象者は肢帯型筋ジストロフィー,要介護度4,50歳台の男性である.父親,妹と同居していた.室内移動は自走用車椅子で自立していた.基本動作は座位保持自立,立ち上がり不可能,1~2秒の離殿と座位での横いざり動作が可能であった.車椅子とベッドの移乗は自立していた.浴室とトイレは1階にあり,入浴が介助でトイレが自立していた.対象者の居室と寝室は2階にあり,エレベーターを使用して1階と2階を移動していた.
 今回,老朽化のためエレベーターの交換を余儀なくされ,交換を終えないとエレベーターが使用停止になるとのことであった.しかし,交換費用を誰が負担するかで難渋していた.そのため,対象者はシニア向け分譲マンション(以下,マンション)へ引っ越しを検討したが,対象者と契約者の長男はマンションでのトイレ動作と室内車椅子移動が不安で契約に踏み切れないでいた.そこで,トイレ改修に関わる多職種とOTでマンショントイレの改修案を検討した.
【介入経過】
 OTはマンション地区で利用できる福祉用具事業所の確認及び貸与可能な車椅子の選定,公的給付制度の確認,トイレへの移乗台設置を検討した.トイレ移乗方法は自走用車椅子であれば移乗台に対し車椅子を直角に付けて90°方向転換の移乗,介助用車椅子で足こぎによる自走であれば移乗台に対し車椅子を平行に付けて横いざりでの移乗を想定し,各移乗方法による便器と移乗台位置の提案を関係する多職種と共有した.次に,OT 起案のトイレ改修案を基に対象者,長男,福祉用具事業者,施工業者,マンション担当者の一同で集まり,マンションでトイレ改修案を検討した.マンション担当者からは各配線の情報,撤去可能な内装の情報を得た.福祉用具事業者と施工業者からは改修可能なトイレと移乗台位置の範囲,トイレ製品の情報,敷居と床の段差解消,自走しやすい床材の変更,いざり動作がしやすい移乗台素材,車椅子用洗面台の設置等の提案があり改修することになった.対象者には自走用車椅子と介助用車椅子それぞれでリビングからトイレ便座までの往復移動の確認を行った.話し合いの末,トイレ改修は介助用車椅子にて足こぎで自走し,移乗台に対して車椅子を直角に付けて90°方向転換の移乗を想定して施工することになった.対象者と長男はトイレ改修案に納得され,マンションの契約に至った.
【考察】
 トイレ改修に関わる多職種と検討したことでOTが想定していなかった提案や,介助用車椅子による移乗方法が改修可能なトイレと移乗台の位置情報からOTが想定した方法から変更になった.結果,OTの事前案よりも利便性と安全性が高いトイレ改修案となり,マンションの契約に繋がった.住宅改修はOTのみだと建築情報や施工技術にそぐわない提案や,例え良案があったとしても建築及び福祉用具の知識が不足しているが故に起案されないことが考えられる.住宅改修においてOTが多職種と連携することはOTの建築及び福祉用具等の不足知識を補うことでもあり,より適した住宅改修案が構築されると考える.