第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第3会場 (会議場B1)

[OA-2-1] 長期臥床を強いられた急性期脳卒中片麻痺患者に対しての低周波刺激を用いた作業療法アプローチ

水谷 信也 (近畿大学奈良病院リハビリテーション部)

【はじめに】脳卒中のリハビリテーションにおいて, Yangら(2019)は,電気刺激療法により.Fugl-Meyer Assessment 上肢項目に改善を認めたと報告している.また,前迫ら(2014)も,脳梗塞急性期の片麻痺患者に上肢への促通反復療法と持続的な低周波電気刺激を併用することで,上肢の運動麻痺が回復したと報告している.今回,それらをもとに,脳卒中片麻痺を呈し,全身状態が不安定なため,早期離床が困難となった症例に対して,臥床期から電気刺激療法による積極的な上肢機能訓練を実施した経過について報告する.
【患者情報】A氏 60代 男性 身長:166cm 体重:100kg  利き手:左
【疾患名】脳幹部梗塞     
【現病歴】20XX年Y月Z日 左上下肢麻痺,呂律困難出現.MRIにて脳幹部梗塞と診断され,入院となる.初日は右上下肢のMMTは3/5だったが,翌日に麻痺の進行あり,MMT1/5まで低下.
【主治医指示】発症翌日に麻痺増悪があったほか,高血圧のため慎重に離床.
【主訴】歩けるようになりたい.左手が動いてほしい.
【作業療法評価】JCS:Ⅱ-10 軽度失語,発動性低下あり. BRS:Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ 感覚:正常 血圧:離床時にSBP上昇(30〜40前後) その他:体位変換時に強度の目眩 ADL:ベッド上全介助.左上肢参加なし.
【問題点抽出】本症例は重度運動麻痺や発動性低下が強く,早期に離床して上肢機能訓練,ADL訓練を実施していきたいものの,麻痺増悪や高血圧,目眩の影響により離床が阻害されていた.そのため,運動麻痺に対する訓練効率の低下やADL介助量増大が予想された.それらに対して,臥床期から電気刺激療法により積極的に上肢機能訓練を行い,離床時に円滑にADL獲得することを目指した.
【介入方法】低周波刺激装置(イトーESPURGE 伊藤超短波(株)社製)を使用し,上肢中枢部の随意性向上,手指離握動作の促通を行なった. 頻度:週5日 時間:以下の麻痺筋に各10分
<方法1>上肢アプローチ:セミファーラー位でTENSにて麻痺筋に対して神経興奮率を上げた上での反復促通療法を施行. 設定:周波数20Hz パルス幅250μs 出力15mA 電極位置:肩屈曲運動→三角筋前部繊維   肘伸展運動→上腕三頭筋
<方法2>手指アプローチ:ファーラー位でEMSにて手指離握を誘発.神経伝達率を向上させた後に反復促通療法を施行. 設定:周波数40Hz パルス幅200μs 出力15mA 電極位置:前腕 総指伸筋,浅指屈筋
【結果】発症5日目より電気刺激療法を開始.23日目より上肢,手指の随意運動出現(BRS:Ⅲ−Ⅲ−Ⅳ)を認め,37日目には上肢,手指の分離運動が出現(BRS:Ⅳ−Ⅳ−Ⅳ)し,体動との連動や,手すりの把持にも左手が参加可能になった.ADLでは寝返り自立.起居から端座位,移乗にかけての動作が軽介助で可能になった.
【考察】今回,脳幹部梗塞を呈した急性期症例において,離床が困難な時期から電気刺激療法と促通反復療法を用いて積極的に上肢運動麻痺にアプローチすることで,回復に対するブースト効果を起こせたのではないかと考える.しかし,急性期病院において,長時間の電気刺激療法,運動療法の運用は患者の体力面,業務効率などから導入しづらいのが現実であり,本症例のように,各関節運動に対して10分程度の実施での効果性を示す報告は少ない.そのため,今後の課題として,麻痺筋に対しての,短時間での電気刺激療法の効果性を更に検証していく必要があると考える.
【倫理手続】本研究は,倫理委員会の承認を得て,患者が特定されないよう配慮した.承認番号:22−36