第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第6会場 (会議場A2)

[OD-1-4] 手根管症候群患者における知覚障害の範囲と神経伝導検査との関連に関する予備的研究

西村 信哉1,4, 石田 愛幸1, 小枝 周平2, 藤田 有紀3, 津田 英一4 (1.弘前大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.弘前大学大学院保健学研究科総合リハビリテーション領域, 3.弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座, 4.弘前大学大学院医学研究科リハビリテーション医学講座)

【諸言】手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)は知覚障害を主症状とする絞扼性神経障害である.知覚障害の評価は質,強さ,閾値,局在等の評価が行われているが,知覚障害の範囲を定量的に評価した報告は少ない.近年,知覚障害の範囲を患者自身に評価してもらい,定量化するheat mapと呼ばれる評価が行われている.しかし,知覚障害の範囲とCTSの客観的評価として使用されている神経伝導速度の関連は明らかとなっていない.本研究の目的は,CTS患者における知覚障害の範囲と神経伝導速度の関連を調査することである.
【利益相反】本発表に関連し開示すべきCOI関係にある企業はない.
【倫理的配慮】本発表に際し,対象症例にはヘルシンキ宣言に基づき説明し同意を得た.
【対象・方法】対象は2022年3月から2023年1月までに手根管症候群の診断にて作業療法を実施した12例13手,平均年齢は67.5±14.8歳,男性3例,女性9例である.正中神経伝導検査による運動遠位潜時(distal motor latency:DML)を測定した.知覚障害の種類を自発性異常感覚,錯感覚,疼痛の3種類とし,先行研究(Helson JT;2019)に従い前腕以遠掌側を図示したheat mapを用いて,それぞれの知覚障害の範囲を患者自身に色塗りして示してもらった.その後,前腕以遠の面積に対する知覚障害の範囲の面積比を求め,知覚障害の範囲を定量化した.各知覚障害の範囲(%)とDMLとの関連についてはSpearmanの順位相関係数を用い相関係数(rs)を算出した.統計解析にはSPSS26.0Jを使用し,危険率5%未満を有意とした.
【結果】知覚障害の範囲は自発性異常感覚が27.2±16.6%,錯感覚が29.3±16.9%,疼痛が16.3±16.5%であり,DMLの平均値は6.6±3.1msであった.各知覚障害とDMLとの関連では自発性異常感覚がrs=0.791(p<0.001),錯感覚rs=0.841(p<0.001),疼痛がrs=0.445(p=0.147)であり,自発性異常感覚と錯感覚のみにDMLと有意な正の相関が認められた.
【考察】DMLと自発的異常感覚,錯感覚との間には有意な高い正の相関関係が認められた.DMLの測定には専門的な知識を要するほか,測定に時間とコストを要する.本研究の結果から,CTS患者における自発的異常感覚と錯感覚の範囲は,DMLを反映した指標であり,簡便にDMLを推定できる評価項目になり得ると考えられた.一方,疼痛とDMLに有意な関連は認められなかった.先行研究でも神経伝導速度と疼痛は関連が無いことが報告されており,本研究もこれを支持する結果となった.したがって,CTS患者の疼痛の範囲は, DMLの推定には使用できないことが示された.今後は症例数を増やし,DMLを推定する回帰式を算出するなどの詳細な分析を行うことで,知覚障害の定量化がより実用的な指標になっていくと考える.