第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-7] 当院の自動車運転評価における実態把握について

善養寺 航耶, 今井 卓也 (公立七日市病院リハビリテーション科)

【はじめに】近年,「脳卒中,脳外傷等により高次脳機能障害が疑われる場合の自動車運転に関する神経心理学的検査法の適応と判断」(日本高次脳機能障害学会,2020)などにより,自動車運転評価の神経心理学的検査の参考基準は増えている.しかし,当院では院内の自動車運転評価の実態把握や,神経心理学的検査の定期的な見直しが行われておらず,内容が標準化されていない.本研究では,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版(以下,J-SDSA)を中心に当院の神経心理学的検査の結果を分析し,標準化された基準との比較を明らかにすることを目的とした.
【方法】2020年6月から2022年11月に当院で自動車運転評価を実施した局在性脳損傷者60名(年齢68.1±11.4歳,男性48名)の内,合格予測式が不合格予測式を上回った者をJ-SDSA可群,下回ったものを不可群に分け,年齢,Trail Making Test(以下,TMT)-A・B,Visual Cancelling Test(以下,VCT),Position Stroop Test(以下 PST),Symbol Digit Modalities Test(以下,SDMT),コース立方体組み合わせテスト,Frontal Assessment Battery(以下,FAB)の群間比較を行った.蜂須賀ら(2015)と,標準注意検査法の60歳平均値を参考にした当院の基準値と,日本高次脳機能障害学会の報告を参考にした60歳平均±2標準偏差(以下,SD)の基準値の可否とJ-SDSAの可否は,χ二乗検定で比較した.群間比較で有意差のあった項目とJ-SDSAの得点の相関分析を行った.有意水準は5%とした.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:20220130).
【結果】J-SDSA可群45名,不可群15名であった.群間比較では,年齢,TMT-A,TMT-B,VCT3所要時間,VCTか所要時間,PST所要時間はJ-SDSA可群が不可群より有意に低かった.SDMT,コース立方体組み合わせテスト,FABはJ-SDSA可群が不可群より有意に高かった.各神経心理学的検査の可否(当院基準値/60歳平均±2SD)のχ二乗検定は,TMT-A(p<0.01/p<0.01),TMT-B(p<0.01/p>0.05),VCT3所要時間(p>0.05/p<0.01),VCTか所要時間(p>0.05/p<0.01),PST所要時間(p<0.05/p<0.01),SDMT(p<0.05/p<0.01)であった.コース立方体組み合わせテスト,FABは基準値が同値のため非実施とした.J-SDSA得点と各神経心理学的検査との相関は,TMT-A(ρ=0.52),PST所要時間(ρ=0.68),SDMT(ρ=0.66),コース立方体組み合わせテスト(ρ=0.55),年齢(ρ=0.42),TMT-B(ρ=0.48),VCT3所要時間(ρ=0.47),VCTか所要時間(ρ=0.42),FAB(ρ=0.34)で有意な相関を認めた.
【考察】J-SDSA可否での群間比較では,VCT,PSTの正答率以外で有意差を認めた.J-SDSAは注意機能,空間認知,遂行機能の能力を測定することから本結果は妥当だと考える.しかし,当院基準値の各神経心理学的検査の可否とJ-SDSAの可否は,VCTに有意差を認めず,60歳平均±2SDの基準による各神経心理学的検査の可否はTMT-Bに有意差を認めなかった.これは,当院の標準注意検査法の基準値が,自動車運転再開の対象となりやすい60歳の平均値を参考にしていたためと考える.自動車運転に関する神経心理学的検査は,高次脳機能が健常者と同等か近い状態であるかを判断するものであり,平均値のみを採用していた当院の基準値は見直す必要がある.TMT-Bは,基準値の参考にしたTMT-Jと用紙が異なっていたことが要因と考える.相関分析では,TMT-A,PST,SDMT,コース立方体組み合わせテストでJ-SDSA得点と高い相関を認めた.当院は,注意機能検査にTMT,VCT,PST,SDMTを採用していたが,本研究の結果や,先行研究からも,TMT,SDMTへ検査数を減らし,患者の負担軽減や評価期間の短縮に繋げたい.