第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-3-3] Web会議システム上でADOCを用いて家族介護者に目標設定への参加を促した経験

小池 真愛1, 田原 正俊1,2 (1.済生会東神奈川リハビリテーション病院リハビリテーションセラピスト部, 2.北里大学医療衛生学部)

【はじめに】今回,家族介護者とWeb会議システム(ZOOM)上で作業選択意思決定ソフト(ADOC)と動画を用いて事例の生活課題を共有し,目標設定への参加を促した結果,家族介護者が事例の生活イメージを把握する一助となり,具体的な課題設定にもつながった.本介入により,家族介護者が目標設定に参加することの重要性と,そのための手段としてZOOMとADOCの有用性を示唆する結果を得たため,報告する.なお, 事例と家族に書面で本報告の同意を得ている.
【事例紹介】50歳代,男性,右利き.現病歴は左側頭葉領域の脳出血を発症し,49病日目に回復期リハビリテーション病院に入院した.病前生活は,持ち家に妻と成人の子供2人と同居し,40歳代に発症した左脳出血により右半盲と高次脳機能障害が後遺してから無職であり,家事を手伝っていたが外出頻度は乏しかった.
【作業療法介入経過】入院時は軽度の右片麻痺を認め.独歩は可能であり,失語症,記憶障害,遂行機能障害,注意障害を認めた.高次脳機能検査は拒否のため,未実施であり,観察評価では,自室の場所が覚えられないことやスケジュール管理の困難さがあった.目標立案のために,病前生活を聴取したが「仕事は最近までしていたし,復帰したい」といった現実検討に乏しい発言があった.そのため,電話で妻から情報収集をした結果,セルフケア自立と留守番に必要な電話の操作,家事動作の獲得とそれに向けた評価の希望があった.その後の評価で電話操作の困難さがあり,遂行状況を妻に伝えると,「前はできたんですよ」と発言があり,複数回の電話での情報交換では妻が事例の現状を把握することは困難な様子であった.そのため,妻の考える事例の退院後の生活イメージや事例に期待することを整理するために,ZOOM上でADOCペーパー版を画面共有しながら情報を整理し,事例の様子を動画で供覧しながら面接をした.110病日目からZOOM面接を開始し,面接1回目では妻から希望があった生活行為を遂行している動画を画面上で共有した.電話操作では失語症により文字理解が困難であり,遂行機能障害によりボタン操作が拙劣な様子を共有した.また,ADOCを用いた面接の結果,食事,入浴,電話,家事の4つの項目に課題として整理された.さらに,具体的に電子レンジ操作,入浴時の温度調節操作,携帯電話操作の確認と家事は洗濯,食器洗い,掃除機の実動作で確認をした.また,面接で妻とすり合わせをした項目を事例と共有した結果,訓練に対して積極的な発言があり,手段的日常生活動作の訓練を進めた.2回目と3回目の面接では1回目の面接で決めた課題を遂行している様子を動画で共有し,妻に事例の遂行状況を説明した.妻からは 「メールは出来ないですね」,「家事はできそうですね」と退院後の事例の生活を想定する発言があった.4回目の面接では環境が変化する事で事例が混乱する可能性や,退院後の家事動作の再確認と注意点を情報提供した.また,ZOOM面接の感想に「動画で本人の状況が見れて分かりやすかった」,「仕事が忙しい中でも時間の合間に参加出来た」と発言があった.事例への訓練では,電子レンジの操作と掃除,洗濯動作が可能となったが,電話やリモコンの操作は困難であり,定期的な連絡の必要性と注意点を妻に情報共有した.そして,148病日目に自宅退院となった.
【考察】本介入を通して,対象者への家族介護者の希望や生活イメージのすり合わせにADOCは有用な手段の一つであることが示唆された.また,面接をオンラインにすることで,家族介護者が支援者との情報共有の場に参加しやすくなるといった利点があることが示唆された.