第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-6-18] 着衣障害に対する身体へのプライミング刺激により更衣動作が改善した症例

黒田 玲菜 (医療法人社団 朋和会 西広島リハビリテーション病院リハビリ部)

【はじめに】
 今回,右被殻出血により左片麻痺,高次脳機能障害(注意・半側空間無視・記憶)を呈した症例を担当した.着衣障害により自力での着衣が困難であったため,先行刺激として身体へのプライミング刺激を導入したところ,更衣動作が改善したため報告する.
【倫理】
 発表に際し本人と家族から同意を得,十分な倫理的配慮を行った.
【症例紹介】
 70代女性,X年Y日に右被殻出血を発症しA病院へ入院,Y+10日目(Z日)に当院入院となる.病前は夫,息子と3人暮らしでADL・IADL自立していた.
【初期評価】
 左BRS:Ⅱ-Ⅰ-Ⅴ,FMA:5/66点,MMSE:18点,Trial-Making-Test(以下TMT)は実施困難,Behavioural Inattention Test(以下BIT)は通常:91/146,行為:61/81点であった.更衣FIMは1点で全介助にて行っていた.
【介入内容】
 Z+30日目から更衣訓練を開始した.Z+93日目までは手順表の作成や鏡の使用など,代償手段を使用した介入を行った.その結果更衣FIMは4点に向上したが,前開きシャツの着衣に要する時間が10分と長く,加えて手順のミスがあった場合自己修正困難という問題点が残存していた.そのため更衣は職員の介助を要していた.そこで更衣自立に向け,Z+94日目から身体へのプライミング刺激を開始した.ここでのプライミングとは,認知心理学的治療介入の1つであり,事前に入力された情報が無意識に記憶され,その後の認識などの脳機能に影響を与えることと定義される.症例には着衣の直前に,呼称しながら自ら健側上肢で①から⑤までの場所を順にタッチしてもらい,その順番通りに衣服を手繰り寄せるよう促した.症例は健側上肢の袖通しが不十分なまま健側上肢へ移行してしまうため,長さが足りず袖通しが困難になることや,腰背部の認識不十分なため衣服を背部で見失う様子が継続して見られていた.そこで本人のミスをカバーできるよう,①は左肩関節,②は右肩関節,③は腰背部,④は右肩関節,⑤は右前腕と定めた.また,プライミング動作の定着を図るためリハビリ時間以外も病棟スタッフと共に動作を反復して行った.プライミング刺激を導入したところ,前開きシャツの着衣は15秒で可能となった.
【最終評価】
 左BRS:Ⅳ-Ⅳ-Ⅴ,FMA:30/66点,MMSE:23点,TMTはA:75秒,B:303秒,BITは通常:143/146,行為:77/81点であった.退院時の更衣FIMは5点で,見守りで更衣可能であった.
【考察】
 本症例の更衣動作が改善した要因として,身体をタッチした効果と番号付けを行った効果があると考える.真下らは半側空間無視の影響を受けた身体無視に対して,患者本人の能動的な感覚利用が有効であると述べている.タッチを行うことで本人による能動的な感覚刺激により身体認識を促すことができたことが,左半側空間無視に対して有効であったと推察される.また,番号付けを行った効果としては,まず着衣の誤操作を防止できたことが誤り無し学習に繋がったと考える.加えて番号のみを意識するよう促したことで,更衣を行う上で考えるべき情報を簡易化でき,症例の注意障害に対する効果的なアプローチとなったと考える.