第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-9-11] COPMを用いた目標設定とrPMSから自己管理型プログラムGRASPへの段階的移行により上肢活動量が増加した脳卒中重度麻痺例

本間 莉那1, 大瀧 亮二1,2, 笹原 寛1, 斎藤 佑規3, 竹村 直3 (1.社会福祉法人恩賜財団済生会山形済生病院リハビリテーション部, 2.東北大学大学院 医学系研究科 機能医科学講座 肢体不自由学分野, 3.社会福祉法人恩賜財団済生会山形済生病院脳神経外科)

【はじめに】脳卒中後上肢機能障害の重症度分類では,FMAが19点以下は重度(Woodbury, 2013)と報告されている.また,脳卒中後の予後予測研究においては,発症から72時間以内に肩外転と手指伸展の随意運動がみられない場合は,機能的予後が悪い可能性がある(Nijiland, 2010).上肢機能障害に対する治療では,反復末梢性磁気刺激(Repetitive Peripheral Magnetic Stimulation: rPMS)が深部の運動神経への刺激により筋収縮を誘発し(Struppler, 2007),衣服上から痛みなく複数部位を刺激可能なことから脳卒中後重度麻痺患者への使用に適している.また,自己管理型プログラムであるGraded Repetitive Arm Supplementary Program(GRASP)は,上肢機能と生活内使用頻度の向上が報告されており(Harris, 2009),当院では日本語版GRASPを用いて実践している(Otaki, 2022).今回,31病日に手指伸展の随意運動がみられず機能的予後が不良と予測された上肢重度麻痺患者に対し,カナダ作業遂行測定(COPM)を用いた目標設定後にrPMSから自己管理型プログラムGRASPへ段階的に移行した結果,目標を達成できた症例を経験したため報告する.
【初回評価】対象は50代男性,右内包後脚ラクナ梗塞による左片麻痺.評価は上肢機能をFMA,ARAT,握力,麻痺手の使用量をMAL,活動量計(GT9X)を用いて測定した.初回評価(31病日)は,FMA 13/66点,ARAT 3/57点 ,MALのAOU0.36/5.0点,QOM0.36/5.0点,上肢使用頻度(対健側比)27%(36病日),握力0㎏で麻痺手の生活内使用は困難であった.COPM (遂行度/満足度)による目標設定は,重要度順に①袋を開ける時に左手で支える(1/1),②皿を左手で支える(2/1)が挙げられた.最終目標として,妻の好きな料理を作ることを希望された.本症例報告をする趣旨を説明し同意を得た.
【治療経過】rPMSを用いた治療は,機能改善目的のために早期より実施した.動作時に肩甲帯挙上の代償動作を認め,手指,手関節の随意運動が不十分であることから,rPMSを用いて棘上筋と三角筋前部・後部線維,上腕三頭筋・手指屈筋群と伸筋群の筋収縮を促進した.刺激条件は刺激頻度30Hz,刺激強度は装置最大出力の60~80%とした.rPMS開始2週目(45病日)よりGRASP Manualに従い,通常作業療法に加え,1日60分の自己管理型の課題指向型練習を4週間実施した.56病日にCOPMの再評価を実施し,項目①-②が可能となったため,③巧緻動作を円滑にする(2/2),④ラジオ体操(2/1),⑤階段昇降を手すりなしで行う(4/3)の項目を追加した.
【結果】rPMS開始時,1週後およびGRASP前,開始後1週,2週,4週の順に記載する.FMA13,21,45,53,57点,ARAT3,35,54,57,57点,握力0,5.6,7.0,8.9,11.7㎏となり上肢機能の改善が見られ,麻痺側上肢使用時の代償動作が軽減した.MALのAOU0.36,2.31,2.93,3.55,4.45点,QOM0.36,1.88,3.64,3.40,4.40点,上肢使用頻度27,44,35,55%となり,生活内での麻痺側上肢の使用頻度・質ともに向上が見られた.COPM①(6/7),②(5/5),③(5.5/6),④(3/2),⑤(9/9)となり,希望した作業の遂行度と満足度は共に向上した.退院後は,最終目標であった妻の好きな料理を作ることが可能になった.
【考察】重度片麻痺症例に対して,COPMを用いて目標設定を行い,rPMSからGRASPへの段階的な練習を実施した結果,FMA,ARAT,MAL,COPM,握力にてMCIDを超える変化を認め,臨床的に意味のある改善があったと考える.本症例の経過のように,COPMで設定した目標と病期に合わせた段階的な練習は,重度片麻痺症例の上肢機能の改善に対し有用である可能性がある.