[PD-5-2] 三角筋の機能不全を伴う変形性肩関節症に対するリバース型人工肩関節置換術後に三角筋機能と肩甲骨機能に着目し介入を行った一例
【緒言】リバース型人工肩関節置換術(RSA)は,腱板断裂性肩関節症や一時修復不能な広範囲腱板断裂に対して有効であるとされる.RSAによる機能再建は三角筋機能が重要であり,肩腱板筋が消失していても肩関節の安定性が得られる.また,早期の機能改善につながり良好な成績が近年報告されている.今回,三角筋の機能不全を呈した腱板断裂性の変形性肩関節症に対し,RSA施行後に三角筋機能と肩甲骨機能に着目し介入を行った経過を報告する.尚,本報告に際して本人に同意を得た.
【症例紹介】症例は80歳代の男性で,右肩関節痛と挙上困難を呈し腱板断裂性の変形性肩関節症と診断された.術前CT・MRIでは肩腱板筋群の筋萎縮と脂肪変性を認め,三角筋中部線維の断裂や変性も疑われた.術前の肩関節自動可動域は屈曲15°,外転15°であった.
【経過】術後3週は入院にて作業療法を実施し,以降外来にて週1回の頻度で作業療法を継続した.術後4週は装具による固定を行いつつ可動域訓練を行い,術後3週より肩関節自動運動を開始し,術後3ヵ月以降に重錘等の負荷をかけた筋力訓練を実施した.術前からの三角筋の機能低下に加え,安静による肩関節周囲筋の筋力低下もあり僧帽筋による代償や肩甲帯の追従性低下をきたした.三角筋中部線維の菲薄化を呈し,肩運動時には体幹部の代償動作もみられ肩甲骨の内転・後傾が増大し,肩甲骨の上方回旋が乏しく肩屈曲・外転運動が困難であった.術後3ヵ月より臥位では重錘の挙上が可能となったが,座位での肩自動屈曲は60°であった.抗重力位での肩屈曲・外転制限が遷延したため,三角筋の繊維別に筋力強化と徒手誘導にて肩甲骨運動の改善に取り組み,人工関節の代償運動獲得を促した.術後6ヵ月では三角筋中部繊維の筋力低下は残存し,代償的な肩甲骨運動の獲得は不十分ではあるが肩自動屈曲110°可能となった.
【結果】術後単純X線にて異常は認めず合併症はなかった.肩関節自動可動域は術後1ヵ月で屈曲30°,外転30°,外旋0°であり,術後3ヵ月で屈曲60°,外転60°,外旋0°,術後6ヵ月で屈曲110°,外転85°,外旋0°であった.肩関節動作時の肩甲骨運動は内転・後傾が著明であり,上方回旋運動の低下は残存していた.
【考察】RSA後の肩関節挙上動作では,肩甲骨の上方回旋運動が増大し,三角筋の作用を最大限活用することが特徴であるが,本症例は三角筋中部線維の筋力低下により肩甲骨の内転・後傾による代償動作が助長されていた.また,前田らはRSAによる関節構造の変化や三角筋の張力変化が生じても,術前後での肩甲骨機能は同様の運動パターンを示すと報告している.本症例においては,術前からの三角筋の機能不全が肩甲骨の代償動作や上方回旋運動の低下の一因となり,RSA後の関節運動が得られず,肩関節可動域制限が遷延したものと思われる.三角筋の繊維ごとの機能訓練に加えて,徒手誘導にて肩甲骨のアライメント・動作時の運動パターンの修正を行ったことで関節可動域の改善につながったと考える.三角筋の機能不全を呈する症例に対しては,三角筋の前方・中部・後方繊維それぞれの残存部位の評価を行い細かな機能訓練を実施すること,肩甲骨の上方回旋運動の誘導に着目し介入することが必要であると考える.
【症例紹介】症例は80歳代の男性で,右肩関節痛と挙上困難を呈し腱板断裂性の変形性肩関節症と診断された.術前CT・MRIでは肩腱板筋群の筋萎縮と脂肪変性を認め,三角筋中部線維の断裂や変性も疑われた.術前の肩関節自動可動域は屈曲15°,外転15°であった.
【経過】術後3週は入院にて作業療法を実施し,以降外来にて週1回の頻度で作業療法を継続した.術後4週は装具による固定を行いつつ可動域訓練を行い,術後3週より肩関節自動運動を開始し,術後3ヵ月以降に重錘等の負荷をかけた筋力訓練を実施した.術前からの三角筋の機能低下に加え,安静による肩関節周囲筋の筋力低下もあり僧帽筋による代償や肩甲帯の追従性低下をきたした.三角筋中部線維の菲薄化を呈し,肩運動時には体幹部の代償動作もみられ肩甲骨の内転・後傾が増大し,肩甲骨の上方回旋が乏しく肩屈曲・外転運動が困難であった.術後3ヵ月より臥位では重錘の挙上が可能となったが,座位での肩自動屈曲は60°であった.抗重力位での肩屈曲・外転制限が遷延したため,三角筋の繊維別に筋力強化と徒手誘導にて肩甲骨運動の改善に取り組み,人工関節の代償運動獲得を促した.術後6ヵ月では三角筋中部繊維の筋力低下は残存し,代償的な肩甲骨運動の獲得は不十分ではあるが肩自動屈曲110°可能となった.
【結果】術後単純X線にて異常は認めず合併症はなかった.肩関節自動可動域は術後1ヵ月で屈曲30°,外転30°,外旋0°であり,術後3ヵ月で屈曲60°,外転60°,外旋0°,術後6ヵ月で屈曲110°,外転85°,外旋0°であった.肩関節動作時の肩甲骨運動は内転・後傾が著明であり,上方回旋運動の低下は残存していた.
【考察】RSA後の肩関節挙上動作では,肩甲骨の上方回旋運動が増大し,三角筋の作用を最大限活用することが特徴であるが,本症例は三角筋中部線維の筋力低下により肩甲骨の内転・後傾による代償動作が助長されていた.また,前田らはRSAによる関節構造の変化や三角筋の張力変化が生じても,術前後での肩甲骨機能は同様の運動パターンを示すと報告している.本症例においては,術前からの三角筋の機能不全が肩甲骨の代償動作や上方回旋運動の低下の一因となり,RSA後の関節運動が得られず,肩関節可動域制限が遷延したものと思われる.三角筋の繊維ごとの機能訓練に加えて,徒手誘導にて肩甲骨のアライメント・動作時の運動パターンの修正を行ったことで関節可動域の改善につながったと考える.三角筋の機能不全を呈する症例に対しては,三角筋の前方・中部・後方繊維それぞれの残存部位の評価を行い細かな機能訓練を実施すること,肩甲骨の上方回旋運動の誘導に着目し介入することが必要であると考える.