第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

神経難病

[PE-7] ポスター:神経難病 7

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PE-7-3] 小脳型多系統萎縮症患者の作業療法における上肢運動失調とTrail Making Testとの関係

園田 悠馬1, 脇田 喜芳2, 西岡 貴志2 (1.神戸大学ウェルビーイング先端研究センター/保健学研究科, 2.滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部)

【序論】我々は,運動失調症が優位の小脳型多系統萎縮症(MSA-C)の為に設計した4週間入院の集中的な作業療法(OT)によって,上肢の運動失調(SARA)及びTMTが改善することを報告した.TMTは,転倒や自動車運転のリスク評価によく用いられるが,MSA-C患者の上肢機能と注意機能を同時に測定できる可能性があり,ADL動作のリスク評価として退院時指導などに役立つことが示唆される.さらに,近年では,電子版TMTの開発が試みられており,アイカメラを用いた視線計測やタッチペンを用いた筆跡計測が臨床場面でも可能になりつつあり,目と手の協調障害や認知障害を呈するMSA-C患者に対し,電子版TMTは有効な評価法となり得る.しかし,MSA-C患者における上肢運動失調の改善と注意機能の改善の関係性は不明な点が多く,退院時指導やリスク評価においてTMT結果は有効な評価であるか疑問である.
【目的】本研究では,退院後ADLのリスクを見据えたOT指導の発展に寄与すること,電子版TMTの開発に向けた妥当性を模索することを目的に,OT前後における上肢のSARAとTMTとの関係を分析することとした.
【方法】診療記録を遡り,入院集中OTに参加し,SARA及びTMTの評価記録のあるMSA-C患者の内,認知症の診断を伴う者を除外し,12名のMSA-C患者(男性5例:女性7例,平均年齢: 62歳 [47~78歳])を解析対象とした.評価項目には,OT前後(入院時と退院時)のSARA上肢項目(指追試験・鼻指試験・回内回外の合計点)並びにTMT part A及びB,TMT⊿ (=B-A),TMT比 (=B/A) を用いた.統計学的解析は,有意水準を5%未満とし,OT前後比較にウィルコクソンの符号順位検定を行い,SARA上肢項目スコアと各TMT時間の相関分析にスペアマンの順位相関係数(rs)を求めた.尚,本観察研究は当大学倫理審査会の承認を受け,オプトアウトにて実施した.
【結果】我々の先行研究同様に,OT後において,SARA上肢項目 (md=0.75),TMT part B (md=18.17秒),TMT⊿ (md=15.58秒) に有意な改善を認めた.さらに,OT前後ともに,SARA上肢項目とTMT⊿との間に有意な相関を示した (OT前: rs=0.70; OT後: rs=0.59).ただし,年齢を制御した順位偏相関分析では,SARA上肢項目とTMT⊿との間に有意な相関はみられなかった (OT前後ともに,rs=0.47).
【考察】本研究はMSA-C患者のSARA上肢項目と各TMTの関係性の変化を明らかにした.OT前後のSARA上肢項目の変化に対し,TMT part A及びBに比べ,TMT⊿の相関係数が高いことから.SARA上肢項目は疾患重症度の代表値でもあり,TMTの内でSARA上肢項目との相関が強い傾向があるTMT⊿の変化が,疾患や障害の進行やOT効果を予測し得る可能性が示唆される.一方で,主に,TMT part Aは視覚認知能力を必要とし,TMT part Bはワーキングメモリとタスク切替能力を反映し,TMT⊿とTMT比は視覚認知能力とワーキングメモリの抑制から実行制御能力の比較的純粋な指標を提供するとされる.各TMTの評価を使い分けることで退院後のADL指導やADL自立の指標となる可能性があり,特にMSA-C患者のTMT⊿では,転倒予防や自動車運転といった運動面と認知面の複合的パフォーマンスの指標となり得ることが示唆される.ただし,年齢を制御した偏相関では,SARA上肢項目と全てのTMTに有意差はみられず,MSA-C患者においても,TMTの所要時間は年齢の影響が大きいと考えられる.本研究結果から,MSA-C患者でも手や目の運動失調に依存することなく,TMT⊿は実行制御能力を純粋に評価できることが示唆された.この発見は,自宅退院するMSA-C患者において,効果的な退院時OT指導や自動車運転の評価やアイトラッキング版TMTを開発する為の重要な情報を提供するものである.