第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-1-1] 急性期病院における膠芽腫術後患者に対するOccupation Based Practiceの実践報告

黒崎 空1, 佐々木 秀一1, 田口 晴貴1, 神保 武則1, 隈部 俊宏2 (1.北里大学病院リハビリテーション部, 2.北里大学医学部脳神経外科)

【背景】膠芽腫は比較的若年でも突然に発症し,約1年の生命予後と悪性度の高い脳腫瘍である.当院における初発患者の標準治療は,開頭腫瘍摘出術に加え,約2ヶ月間入院し化学療法,放射線療法を行い,併行してOTが実施される.また,膠芽腫患者は,罹患に伴い社会的役割や生きがいの喪失を経験するため,OTでは重要な作業に対する個別的な支援が重要となる.我々は,膠芽腫術後患者にAid for Decision-making in Occupation Choice(ADOC),Classification and Assessment of Occupational Dysfunction(CAOD)を使用し,患者の重要な作業を選定し作業機能障害を共有してOccupation Based Practice(OBP)を行うことで,退院後のQOL向上に繋がると考えた.本発表の目的は当院で取り組んでいるOBPが,退院後の膠芽腫術後患者のQOLへ与える影響を検討した.
【方法】対象は2020年から2022年に初発膠芽腫に対し標準治療が行われた13例のうち,治療中の腫瘍の再発を認めなかった11例とした.OT介入は,後療法が開始となる術後2週経過時でADOC,CAODを実施しOBPを開始した.評価項目は年齢,性別,病巣,運動麻痺・高次脳機能障害の有無,FIM,CAOD,QOL(EQ-5D-5Lのタリフ値)とした.評価時期は術後2週経過時,退院時,退院3ヶ月経過時とした.統計学的解析について,各評価時点のEQ-5D-5LとCAODの中央値に対し,各群の検定にはKruskal-Wallis検定を使用し,有意水準は5%未満とした.なお,本発表に際して当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】平均年齢は55.8±11.7歳,性別は男性7名,女性4名,病巣は前頭葉2名,頭頂葉5名,側頭葉2名,小脳1名であった.退院時に運動麻痺を認めた患者は3例,退院時のFIMは平均123.8±4.7点と,ADLは概ね自立していた.注意障害や記憶障害は7例で残存した.ADOCで選定された作業はADLが3個(6.0%),移動に関する作業が12個(24.0%),IADLが8個(16.0%),仕事が8個(16.0%),余暇活動が19個(38.0%)であった.CAODの中央値(IQR)は,術後2週経過時44(38-65)点,退院時40(29-53)点,退院3ヶ月経過時39(18-58)点に改善したが有意差はなかった.EQ-5D-5Lのタリフ値の中央値(IQR)は,術後2週経過時0.75(0.64-0.83),退院時0.77(0.68-0.85),退院3ヶ月経過時0.86(0.61-1.00)と有意差は認めないものの改善傾向であった.退院3ヶ月時点でQOLが高値であった症例と低値であった症例を供覧する.事例1は50歳代男性.事例は警備員への復職を希望するも注意障害と記憶障害があり,OTで代償手段の確認や指導を行い,退院3ヶ月後に復職を果たしCAOD,QOLは改善した.事例2は50歳代男性.運動麻痺,注意障害によりADLに監視を要したが,塾講師への復職を希望した.OTでは退院支援に加え,模擬的な事務作業の提供を行った.退院後に復職したが,注意障害により業務の遂行が困難なため休職となり,退院3ヶ月後のCAODは悪化し,作業周縁化が特に高値となり,QOLも低値であった.
【考察】初発膠芽腫患者に対するOBPは,入院中から家事・仕事・余暇活動への復帰を見据えて介入できるため,退院後のQOL改善に有効な可能性がある.